めちゃくちゃに暑かった2023年の7月。
まとまった雨の日は一日もなく、毎日毎日35℃の晴天が続いた。
そんな7月の最終週に、今年もフジロックが開催された。
例年この時期はまだ梅雨明けしてなかったこともあったし、苗場の山は外界よりも一層不安定な気候だし、多少の雨は覚悟して行くのがフジロックだという感覚がこれまでの経験から染み付いているんだけど、今年に限ってはまったく心配していなかった。
そして案の定の晴天。
コロナ禍による開催中止を経て、去年も開催はされたものの、観客も運営もおそるおそる…っていう感じだったんだが、今年は本格的にあのフジロックが帰ってきた!というムードが会場に満ち満ちていた。
会場に向かいながらそんな空気をたっぷり味わって、ゲートをくぐる前からすでに幸せいっぱいでございました。
最近は加齢による効果でいろんなことで感動しちゃう体質になってきてるんだけど、フジロックについても、昔は好きなアーティストのライブがたくさん見られるっていう喜びだけだったのが、もはや、この場所があることや、たくさんの人が集まって楽しそうにしてることや、そういった環境そのものに対してまずは胸がいっぱい。
昔は前夜祭から月曜の朝までフルで遊び倒していたもんだったけど、幼い子供を家に残して三日三晩自由に過ごすのはちょっとむずかしいので、最近は三日のうちの一日に狙いを定めて行くのが恒例になっている。
ということで、2023年は最終日に行ってまいりました。
1997年に苗場に移ってから、ステージ数や会場のレイアウトなんかは基本的にずっと同じなんだけど、完全に同じなわけではなく、少しずつ変化していってる。
今年からの変化といえば、まずは「FUJI ROCK PLUS」という名のVIPチケットの導入でしょう。
「不便を楽しめ」というフジロックらしさには反するよなという葛藤はありつつも、古株のフジロッカーはもう世代的に50歳前後になってきてるわけで、個人的にはアリだと思う。
買わなかったのは、自分にはまだ早いかなというだけ。
一日だけ参加するスタイルだからだと思うけど、今年もまだまだ足腰いけました。
あとは現地の話じゃないんだけど、ここ最近当たり前のようにあったYouTubeでの中継が今年はなかったというのも大きな変化だったな。
自分が行かない日の中継がなかったのは普通に残念ではあったけど、よく考えたらむしろなんで今までタダで見せてもらえてたんだって思う。
来年から何らかのかたちで中継を復活させるなら、1日1,000円とかだったらたぶん払う人は何万人もいるんじゃないかな。世界規模を考えたら百万単位かもだし。
AM10:00
苗場に到着。
当日券を買ってリストバンドを巻き、ゲートのところでセルフィーを撮影するという恒例行事からスタート。
グリーンステージでnever young beachが始まったのを横目にさらに奥地へ移動し、ホワイトステージへ。こちらではHomecomingsが演奏中。
本当はもっと奥地にさっさと行きたかったんだけど、大きなステージに怯むことなく、いつもの気持ちいい感じでライブしてるHomecomingsにしばし釘付けされる。
⚡️FUJI ROCK FESTIVAL'23⚡️
— Homecomings (@homcomi) 2023年7月27日
いよいよ今週末はフジロック!
Homecomingsは3日目、7/30(日)WHITE STAGEにて11:00〜出演します💐
皆さま暑さ対策してお集まりください🌞https://t.co/CryzlwEBip@fujirock_jp #フジロック pic.twitter.com/IVpozl5YcR
AM11:40
ホムカミに後ろ髪を引かれながらフィールド・オブ・ヘブンへ。
そう、今年のフジロック最大のお目当てである民謡クルセイダーズに間に合わなくなるので。
ここ数年、民クルのライブには行けるだけ行きたくて、奥多摩のキャンプ場とか葉山の海の家とか鶯谷のライブハウスとかいろんなところに足を運んできたんだけど、実は初めてライブを見たのが2018年のフジロックだった。
悪天候などあって疲れ切っていたにもかかわらず、深夜のパレス・オブ・ワンダーで初めて見た民クルは本当にすばらしかった。
2022年のフジロックにも出る予定だったんだけど、直前にコロナでキャンセルになってしまい、今年はそのリベンジのような意味合いでもあり、めちゃくちゃ楽しみにしていて。
開始直後こそオーディエンスの数がまばらだったものの、曲を経るごとに増えていき、また熱気も増し増し。
おそらく初見の人が多そうな雰囲気だったんだけど、日本人ならなんとなく馴染みのある民謡と、強制的に足腰を踊らせにくるビートの掛け合わせは、フジロック(特にヘブン)に来るような人に刺さらないわけがない。
クンビアありサルサありマンボありレゲエありブーガルーあり、ありとあらゆるカリブ産のダンスミュージックの美味しいところを駆使してくる民クル。
民謡って基本的に西洋音楽とは別ものとして発展してきたので、五線譜に落とし込めなかったり四拍子で割り切れないところがあったりするし、ラテン音楽はシンコペーションや裏拍が強かったりクセがあるんだけど、民クルはそのあたりの料理の仕方が本当に上手。
DJ目線で使えるビートをディグする感覚でやってるようなところもあるなと思う。そのセンスがたまらない。
ということで、まだ昼なんだけどこの時点で元は取れた感。以降はすべて余生の楽しみということになります。
PM1:00
フェスといえばごはん。
とにかく体力勝負なのと空き時間がタイムテーブル次第ということで、フジロックでは1日3食という規則性は完全に失われる。
食べられるときに食べるのでだいたい5食ぐらいになりますね。
ということでまずはビリヤニ。
そして食べながらぼんやりスターダスト・レビューを観戦したんだが、やっぱり苦手でした。
ちゃんと聴いたことがないままにたぶん苦手なんだろうなと思ってきたんだけど、あのフジロックに呼ばれるからには、何か食わず嫌いなところがあったのかもしれないと反省して、いい機会だしちゃんと向き合ってみようと思ったんだけど、やっぱり苦手でした。
気を取り直して、再びヘブンに戻り、OKI DUB AINU BANDへ。
2010年にリリースされた「サハリン ロック」って曲がめちゃヤバくて、その時期の渋谷クアトロでのライブも最高で、そこからしばらく追ってたバンド。
一言でいうとアイヌの伝統楽器を使ってダブを演奏するバンドなんだけど、ドラムが沼澤尚だったりエンジニアが内田直之だったりキーボードがHAKASE-SUNっていう鉄壁のメンバーを擁している真ん中でトンコリっていう弦楽器が映えまくるっていう、ちょっと世界中に類を見ない音になっている。
本来は南国ジャマイカで生まれたダブっていう音楽形態が、ポストパンクの時代にイギリスに渡って、寒々しいダブもアリっていうことが発見されたんだけど、OKI DUB AINU BANDはさらに北にダブを持ち込んだ。
しかもアイヌ音楽という、それまでロックやポピュラー音楽の文脈に置かれたことが一度もないものを料理するために使ったところもすごくて、結果、北海道の深い森とか湖を感じさせる音になっているんだよね。
何年か前に行った支笏湖の静かな森と、土産物屋で口琴を教えてくれたアイヌのおばあさんを思い出す。
PM3:00
時間を持て余したのでぶらぶらしつつまたご飯。
「スリランカ屋台メシ コットゥロティ」とかいう、エスニック料理はそこそこ食べてきた自負のある自分でも完全に初耳なやつを食べてみる。
が、ちょっと期待外れ。
ROTH BART BARONを遠目に見て、民クルのメンバーがやってる民謡ユニット こでらんに〜も遠目に見て、体力を温存。
PM4:00
ホワイトステージで100gecsを待機。
はちゃめちゃに散らかったハイパーポップで数年前から話題になっていたアメリカ出身のデュオ、100gecs。
エクストリームな打ち込みビートの上でヘヴィーメタリックなギターが鳴ってるタイプの音は個人的に大好物で、古くはMINISTRYやKMFDMやラムシュタイン、ATARI TEENAGE RIOTあたりの系譜ですね。ドイツ勢が多いんだけど日本だとhideとか。
最近だと出自は全然違ってそうだけどSkrillexはその流れで聴いてた感覚があり、100gecsも自分の中では繋がってる。
そのSkrillex、2018年にグリーンステージに出たときはYOSHIKIが登場したりでど派手なパフォーマンスを繰り広げてたので、ホワイトステージの100gecsにもかなり期待してたんだよね。
ところが、100gecsはステージに出てきたのはメンバーの2人のみ。ちょっと変わった衣装でギーク感を醸し出していたものの、基本的にハンドマイクで歌うだけで音はカラオケ。
たとえば音源ではサンプリングで鳴らしていた音もライブでは人力でやるみたいな、そういう工夫(2017年のTHE AVALANCHESみたいな)は一切なかった。
なので正直いって数曲で飽きてしまった。
自分が100gecsだったら、ANTHRAXのスコット・イアンみたいな、ゴリゴリのメタルギターを弾けるけど遊び心がわかってる人をギタリストとして帯同して、音源よりもメタル度を高めたアレンジにしたりとか、もう少し低コストでいくとしても映像に凝ってみるとか、YOSHIKIを出せとは言わないけど何かしらはできたと思うんだよなー。
期待していただけにこの飽きは残念でした。
↑スコット・イアン…ゴリゴリにメタリックなリフを弾きつつラップもしちゃうスキンヘッド
PM6:00
続けて同じくホワイトステージに登場したのがBLACK MIDI。
こちらは圧倒的なバンド力で激ヤバでした。
何よりもまずドラマーの手数の多さや尖り具合がすごくて、その鬼神っぷりを見てるだけでも十分楽しい。しかもただ手数が多いっていうだけじゃなく、クラッシュシンバルでバシャーン!って白玉を打ったときの破壊力もすごくて、そこに関してはBOREDOMSのYOSHIMIっぽい。
そしてギター2本とベースの絡み方やトリッキーな楽曲構成もヤバヤバで、そこに関しては『ディシプリン』期のキング・クリムゾンとか、90年代の変態ベーシストバンドのPRIMUSあたりを彷彿とさせる。
つまり最強に最強を掛け算した状態であり、今日2度目の個人的ピークがやってきてました。
夕方以降は夜中まで温存するはずが気づいたら汗だく。
↑PRIMUS…BALCK MIDIの狂いっぷりはこのバンドを思い出させた
PM7:00
あたりはすっかり暗くなっていた。
ホワイトからグリーンに通じるボードウォークを歩いていると、遠くから聴こえてくる音がバンドサウンドっぽい。
でもこの時間帯はBAD HOPのはずでは…?と思いながら歩いてグリーンステージに到着。
先日解散を発表した川崎出身のヒップホップグループ、BAD HOP。
MCによると他のアーティストがキャンセルになって急遽オファーが来たらしい。
いまや日本語ラップシーンを代表する存在になった彼らだけど、フジロックはいわばアウェイ。そこで何かカマしたいってことで、なんと初の試みとして豪華メンバーによる生バンド編成でやることにしたのだった。
特にリズム隊はRIZEの2人で、ラウドなバンドサウンドにラップを乗せるという2000年前後に流行ったミクスチャーロックのスタイルを完全に踏襲しており、30代後半以上のキッズは大喜びのやつ。
BAD HOP、フジロックで特別バンド編成を披露!金子ノブアキ、KenKen、masasucksらと圧巻のパフォーマンス
昨今のY2Kリバイバルの流れに繋がってるのかどうかわからないけど、若い人には新鮮に聴こえたのであれば、今後この流れがひとつのトレンドになってくるかもしれない。
ただ当時と違って最近はトラップのビートに合う3連符のラップが主流なので、そのあたりがどう消化されるのかは見もの。
このあたりでシュラスコ丼を食べた。
PM9:00
キャリアの長いベテランが数年ぶりにフジロックに出演することはよくある。
25年ぐらい前にハシノがやってたバンドが神戸で自主イベントをやった際に赤犬に出てもらったこともあり、昔から好きなんです。
(ちなみにそのイベントには、キングブラザーズやクリンゴンやからふうりん(キセルの前身バンド)にも出てもらった。われながらすごいセレクト)
前回のフジロック出演時はディスコを基調としたミクスチャーといった音楽性だったけど、ここ10年でイメチェンし、現在は昭和〜平成の夜の匂いがする演歌歌手がやってそうな感じになっている。
裏ではヘッドライナーのLIZZOがグリーンステージを盛り上げてたり、ホワイトではWEEZERがやってたりするだろう時間帯に、あえてここに集まった少数精鋭(とはいえ苗場食堂の前は大混雑)を相手に、チークダンスありズンドコあり宇宙歌謡ありの大盤振る舞い。
30周年記念公演の告知ポケットティッシュもゲットしました。
PM10:00
赤犬の余韻を引きずりつつグリーンステージへ。
さっきまでの半径10メートルのコアな世界も最高だったけど、そこから急に全世界規模のポップスター様を目にすると、すぐにはピントが合わずにクラクラする。
全員女性メンバーのバンド編成で、映像も駆使して、そして何よりも本人の存在感で、数万人を捕らえて離さないのはさすが。
それでいて、ファンが掲げるメッセージボードにいちいち反応してあげたりする細やかさもあるっていう。
この後、スタッフからの例のパワハラ内部告発があって揉めてるわけですが、真偽の程がわからない段階であれこれ言うのはお行儀よくないのは承知の上ですが、一般論として、全世界を相手にエンパワメントするのが適切なスケール感の人間っていうのは、身近な人にとってはたぶん相当つきあうのが難しい感じなんだろうなと。
美空ひばりやJBやマイケル・ジャクソンなんかのエピソードを見てるとそう思う。
日曜のヘッドライナーの終演後にグリーンステージに鳴り響くジョン・レノンの「パワー・トゥ・ザ・ピープル」を背中に聴きながらレッドマーキーへ。
何だったか覚えてないけど何らかのフェス飯を食べながら、きゃりーぱみゅぱみゅを遠目でウォッチ。
有名曲を惜しげもなく連発していてとにかく華やかで楽しい。
外国人オーディエンスも盛り上がってた。
AM0:00
だいぶ疲れてたけど、今日の最後のお目当てであるGINGER ROOTのためにきゃりー終了後のレッドマーキーを最前列付近まで前進。
2010年代にトロ・イ・モワを中心に盛り上がったチルウェイブを受け継ぎつつ、さらにヴェイパーウェイヴ要素を強めて、その結果、映像も含めて日本の80年代文化をどっぷり取り込んだ奇人GINGER ROOT。
架空の80年代日本でGINGER ROOTが「キミコ」っていうアイドルをプロデュースしてるっていう設定を作品にしたアルバム『nisemono』が話題になった。
この映像へのこだわりはライブでも発揮されていて、ライブの様子をカメラマンが撮影していて、その様子がステージ後方のスクリーンに昭和の生放送の質感で映し出されるっていう趣向。
しかも、例の女性マネージャーだとか、キミコ本人まで生でステージに登場したんだから大盛りあがり。
中森明菜「スローモーション」をカバーしたりもして。
憎たらしいほどによくわかってる。
でですね、そういう仕掛けだけじゃなく音も実にしっかりしており。
リズム隊の2人はタイトかつ適度にライブ感もあるいい演奏をしていたし、ライブアクトとしても良質でした。
それがもっともよく出ていたのが、先日亡くなった坂本龍一への追悼の意味が込められていたとおぼしき後半のYMOメドレー。「東風」や「Tighten Up」 を本家と同じ3人編成でやり切ると、自分も含めてみんな大歓声。
この時期のGINGER ROOTを見れてほんとによかった。
たぶんいろんな人が言及してるだろうけど、80年代の質感へのガチなこだわりっぷりがものすごく藤井隆と通じるものがあって。
両者をなんとか引き合わせたいよね。TBSラジオのアトロクあたりで実現しないかな。
というわけで、約15時間の苗場を満喫しまくりました。
来年もフジロックよろしくお願いします!