フジロックフェスティバルには、1997年から毎年行ってる。
以前は木曜の前夜祭から月曜の朝まで大人数で宿に泊まってたっぷり満喫してきたが、ここ10年ほどは、子供が小さかったこともあり、3日間のうちラインナップ次第で1〜2日に狙いを定めて行くスタイルにしている。
しかし、今年は藤井風の出演が発表された瞬間、ぼやぼやしてるとソールドアウトして後悔するぞと思ったのと、発表されたラインナップが例年以上に好みすぎたので、勢いで早めに3日通し券を購入した。
つまり、10年以上ぶりのフル参加。
あの頃ほどの体力はないが、経験値と経済力でカバーすべく、すなわち椅子に座った状態での15分ほどの仮眠を何度もとって体力を温存しながら、着圧タイツと登山用靴下で披露を軽減していくことで、歩きまくり踊りまくりの3日間を乗り越えられた。
天気が大きく崩れることがほぼなかったことも幸いしたと思う。
細かい感想は後の方で述べていくとして、先に総括をしておくと、自分にとっての今年のテーマは2つ。
ひとつは、Khruangbin(クルアンビン)を土曜日のヘッドライナーに大抜擢したこと。
もうひとつは、パレスチナをめぐるさまざまな動きにフジロックはどう反応するのか。
まず、クルアンビンについては、前回のフジロック出演の際にこんなブログを書いた程度には、思い入れがありまして。
当時はフィールド・オブ・ヘヴンでマニアックな客を相手にライブしたわけだけど、それが6年経って堂々たるヘッドライナーとして帰ってきた。
これは当然グリーンステージで彼らの凱旋を見届けたと思うじゃないですか。
でも実は今回は見送ってます。裏でやってたBADBADNOTGOODを見ていた。
クルアンビンは、70年代のタイの音楽に影響を受けたアメリカ人のバンドなんだけど、彼ら以降、同じようなコンセプトのバンドが明らかに増えた。
今年のフジロックにも何組か、そういう欧米以外のローカルな音楽のモチーフを取り入れた欧米人のアーティストが出演していたんだけど、どうにも今年はその流れに乗れなかった。
その手のアーティストのライブを見ながら、なぜ今の自分はこれがピンときてないんだろうと考えていたんだけど、その場では答えが出なくて。
ただその後、ところ天国で鈴々舎馬るこ師匠が「目黒のさんま」というネタをアレンジして演じていたのを見て、ちょっと気づいたことがあって。
「目黒のさんま」というのは、出先で地元の百姓に焼いてもらったさんまのおいしさが忘れられなくなった殿様が、お屋敷に戻ってさんまを食べたいと所望したところ、料理番が変に気を回してさんまをわざわざ蒸して脂を抜いてしまって小骨も取り除いてしまってつみれ汁にしてしまい、まったくの別物になってしまったという噺。
今の自分の気分として、欧米人によるローカル音楽解釈が、脂の抜けたさんまのように感じてしまったんだよね。そんな自分のモードに気づいたので、好きだったクルアンビンを見ても今なら物足りなさを感じてしまうかもしれないと。
それならいっそ、ヘッドライナーの逆張りをしてみようと思った次第。これまでもヘッドライナーの裏で数々の伝説が生まれてきているのがフジロックでもあるので。
そしたら案の定BADBADNOTGOODがめちゃくちゃすばらしいライブを見せてくれたので、この判断は正しかったんじゃないでしょうか。
もうひとつのテーマと思っていたのが、パレスチナのこと。
2023年のハマスによるイスラエルの音楽フェス襲撃事件をきっかけに激化したイスラエルによるガザ地区への攻撃は、現在も続いている(そもそもパレスチナ問題はもっと前からある)。
イスラエルによるパレスチナの破壊に加担するトランプ政権や、イスラエル寄りとされる世界的企業たち、またナチスへの反省が強いあまりにパレスチナに連帯する市民をも反ユダヤ主義として弾圧してしまうドイツなどに対して、世界中で大規模な市民の反応を生んだ。
音楽の世界では、多くのアーティストが、イスラエルやトランプ政権に対する抗議とパレスチナへの連帯の姿勢を示してきた。
今年のフジロックの3日目のヘッドライナーであるMASSIVE ATTACK(マッシヴ・アタック)もそのひとつだし、同日のKNEECAP(ニーキャップ)もそう。
この時期に彼らをブッキングするっていうことは、そして配信に乗せるっていうことは、フジロックのスタンスを決定づけることだったと思っている。
そもそもフジロックというのは、RAGE AGAINST THE MACHINEやATARI TEENAGE RIOTやASIAN DUB FOUNDATIONといった政治的なメッセージを強く打ち出しているバンドを積極的にブッキングしてきた。日本だと忌野清志郎やソウル・フラワー・ユニオンや加藤登紀子。
その流れからすると、今年のラインナップは当然とも言える。
KNEECAPのライブでは、世界中のデモで叫ばれている「Free Free Palestine!」というコールが何度もあったし、MOGWAIはステージ上にパレスチナの旗を掲示していた。
SNSでめちゃくちゃに論争が起こった通り、MASSIVE ATTACKは日本語字幕をつけた映像でパレスチナ問題やテック企業による監視や世論の誘導について真正面から警鐘を鳴らしていた。
音楽に政治を持ち込むな、なんて意見がいまだに日本のSNS上には飛び交ってるけど、そんな議論はとっくに通り越した境地で、やるべきと思った表現をやっていた。
それでこそフジロックだよな、と思いました。
来年でフジロックは30周年になるみたいだけど、それまでにパレスチナにもウクライナにもイランにもその他の地域にも平和が訪れていたらいいのになと思いつつ、もしそうなっていなかったら、フジロックとして何らかの打ち出しがあるのかについても期待したい。
この後はアーティストごとの感想を時系列でダラダラ書いています。
自分が数年後に読み返して懐かしく思うためのテキストなのですが、時間に余裕がある方はお付き合いいただけたら幸い。
7月24日(金)
1時間単位の予報や雨雲レーダーでは一時的に雨になると出ていたので雨具でしっかり備えたが、結果的にほとんど降らず。
暑さもそれほどではなく、過ごしやすかった。
テレビ大陸音頭
ずっと見たかったバンド。
若くて勢いがあって破壊的な魅力があり、30年前のキングブラザーズなどを彷彿とさせた。
ただ、今どきだなと思ったのはみんな演奏がうまいってこと。
この手の若手って、バンドとしては荒削りだけど得意分野の楽曲では爆発的なノリを生み出せるみたいな、一芸入試みたいなことが多かったけど、かれらは楽曲の幅が広くていろんな武器を持ってる。一芸どころか帝大って感じ。
クマイルス
カンボジア音楽を演奏する日本人のバンド。
クレイジーケンバンドとほぼ同じ編成の大所帯で、タイのモーラムにも共通するイナタイ音を鳴らす。前述の「目黒のさんま」のたとえで言うと、地元民も捨てるような癖のある部位だけを凝縮したような感じ。
最高すぎてCD買った。
ALTIN GUN
わたくし実はイスタンブールでCD屋に行ったほどトルコの音楽にハマったことがありまして。音源は前から好きだったバンドで、やっと生で見れた。
アナドルロックのエッセンスを、現代的なサイケ感も含めインディーロックっぽく昇華していつつ、おいしい脂の部分はしっかり味がした。
TURNSTILE
前回はホワイトステージに登場して大盛り上がりした、人種も性別も混合のハードコアパンク。
グリーンステージの規模でも、あの熱狂は維持されていた。
曲と曲の間の時間が異様に長かったりするんだけど、それも客が次のモッシュに備える時間のためじゃないかと思うほど。
HYUKOH
韓国を代表するインディーロックバンド。去年は台湾の落日飛車とのコラボでグリーンステージに出演したが、今年は単独でレッドマーキーに登場。
繊細でメロウかつオルタナなアンサンブルは健在でした。
7月25日(土)
朝からちょっと雨。
藤井風もしくはXGが目当てだと思われる、フジロックでは普段見かけない客層が目立った。
とはいえ、悪い意味で浮いてたりとか、いわゆる「地蔵化」の問題はそんなに気にならず、みんなはじめてのフジロックを楽しもうとか溶け込もうとしているように見えた。

柴田聡子(BAND SET)
ダブマスターXのPAによるダビーな「ワンコロメーター」から始まったのはフジ仕様か。
そこから「雑感」や「シナジー」など名曲連発。
この前見たときにも思ったけど、ベースの人がすごくいい。
ステージさばきもかっこよくて、フェス映えする。
neco眠る
10年以上ぶりに見た気がする。
そしてその時よりも今回のほうがよかった気がするのは、気合が入っていたからか、脂が乗ってきたからか。オレンジエコーにしとくのはもったいないほどの盛り上がり方だった。
東のサケロック、西のneco眠るみたいな時期あったよね。
LA LOM
ギター中心でクンビアやチーチャを奏でるスリーピースバンド。
クンビアやチーチャって基本的にラテンパーカッションが3人ぐらいいるような大編成バンドが一般的だけど、このバンドはドラマーがめっちゃ器用で1人3役ぐらいこなしていたのが印象的。
足でキック、右手でシェイカー、左手でボンゴ、みたいな感じ。
cero
こないだ別のフェスで見たときは5人編成でネイキッドな感じだったけど、この日は7人。
やっぱりこの編成のほうがやりたいことができている感じが格段にある。
一番好きな「Fdf」も5人ではやれなかったのかやらなかったのかだけど、この日はばっちり演奏してくれた。
5人と7人でこうも音の厚みや複雑さや自由度が違ってくるものなのかと驚き。
BASEMENT JAXX
ひたすらアッパーで過剰で楽しかった。
なのにクィアな色気や繊細さもあって、ハウスミュージックの好きなところが詰め込まれている。
ライブではトランペットとギターでラテンテイストを増していたのもさらに高評価。
最後の「Where's Your Head At」でゴリラの着ぐるみが大量に出てきたのとか最高。
THURSTON MOORE GROUP
客層が若返ったと言われている近年のフジロック。
あのサーストン・ムーアがわりとガラガラだったことからも伺える。だってソニック・ユースで出たときにはグリーンステージだったよ。90年代を知る世代にとっては神格化すらされてるような人だよ。
この日はソニック・ユースのドラマー、スティーヴ・シェリーと共に、あの音のギターをかき鳴らしており、元妻のキム・ゴードンがトラップとか新しい取り組みに行ってるのと対照的だった。
藤井風
アーティストグッズの物販ブースがこの人だけ別枠だったことからもわかるように、圧倒的に集客した藤井風。
いきなりPAブースからサックスを吹きながら花道を闊歩してステージに登場したところから、大入りのオーディエンスの心をがっちり掴んでいた。まさにスターといった風格。
音の方はというと、70年代スティーヴィー・ワンダーのようなニュー・ソウルを基調とした音楽性を高い演奏力で表現しており、客寄せのために単に人気者をブッキングしてみたっていうことではない。フジロックのヘッドライナー格を務めるにふさわしいライブだった。
BADBADNOTGOOD
ここでXGかサニーデイ・サービスからクルアンビンに行くのが王道でありましょう。
しかしフジロックの数々の伝説はヘッドライナーの真裏で作られてきたことも事実。
健全な逆張り精神でBADBADNOTGOODへ。
すると同じ気持ちの人たちがヘヴンに集結していたらしく、周囲にいる全員がまったくバラバラの踊り方で好き勝手に楽しんでおり、これこれ!っていう気持ちに。
もともと彼らのことはいわゆる新世代ジャズの中でも好きなグループのひとつだったけど、卓越した演奏技術だけでなくライブ運びも上手で、ますます好きになった。
YMOの「RYDEEN」のカバーも楽しかったけど、最後にさらっとやったロイ・エアーズの「Everybody Loves The Sunshine」が鼻血が出るほどかっこよかった。
ヘッドライナーの逆張りによる成功体験がまたひとつ自分のなかで積み上がった。
TOMORA
ケミカル・ブラザーズのトムがオーロラっていう女性アーティストと組んだユニット。
ライブではオーロラともう一人同じ衣装を着た女性アーティストがいて、双子のようにパフォーマンスしていた。
ケミカルと比べて見た目が華やかであることと、あとケミカルのライブは基本的に全曲が繋がってる構成なんだけど、TOMORAでは1曲ごとに区切っていたことが違い。
音はというと、ダンス要素の薄い歌ものもあったりしたけど、基本的にはケミカル・ブラザーズの凶悪なビートやウワモノは健在で最後はきっちり踊らされたのであった。
7月26日(日)
朝から雨がしっかり降っていて、昨日までの疲れもあるしでなかなか外に出ていく勇気がわかなかった。鬼の右腕は見たかったけど、ダラダラしていたら浅井健一の途中からに。ブランキー・ジェット・シティの曲を連発していて、中年が熱狂していた。
THE LEMON TWIGS
昔から注目していた兄弟。70年代ソフトロックやパワーポップの意匠をしっかりと押し出してくる時代錯誤がたまらない。あくまで長髪っていうのが重要。
彼らがやろうとしていることに深く感じ入るところがあり、以前こういうブログを書いたほど。
ヨット・ロックもポスト・パンクも20年以上リバイバルが続いて飽きたので、次のモードとして「御茶ノ水系」をご提案します - 森の掟
久しぶりに見たら、直球ド真ん中のパワーポップ曲ばかりになっていて、振り切ったなと。
90年頃のレニー・クラヴィッツみたいに、ファッション業界がリバイバルのアイコン的存在として祭り上げてくれないかな。
レニーがマドンナやヴァネッサ・パラディにモテたような感じでイケてる存在になってほしい。
KNEECAP
アイルランドの勢いある若手。
おじさん世代からすると、あの頃のビースティ・ボーイズのヤンチャ感とプロディジーのビートの凶悪さとU2のアイリッシュな政治性を兼ね備えたように見える。映画でいうと『パッチギ!』みたいなグループ。
ステージ上にはパレスチナの旗が掲示されていて、「Free Free Palestine!」というコールもやっていた。前の方にいたオーディエンスの中でも即座にコールに反応できる人は多くはなかったけど。

MOGWAI
この後は見たいアーティストが連続していて過酷になるため、ここが最後の休み時間。
MOGWAIはご飯を食べながら後方でゆっくり鑑賞したけど、轟音ギターは健在でした。
あと控えめながらもしっかりパレスチナの旗を掲示していた。
GEORDIE GREEP
元Black Midiのフロントマン。何年か前のレッドマーキーで最凶のライブをかまされた印象が強く、またソロ・アルバムもめちゃくちゃよかったので今年のフジでもっとも期待していたアクトのひとつ。
日本人の腕利き若手ジャズ・ミュージシャンをおそらく今回のために招集したとおぼしきバンド編成だったんだけど、練度がすごくて圧倒された。
オルタナ・フュージョンとでも呼びたいような感じで、リズムやフレーズは往年のそれこそ高中正義にもあるようなものだけど、現代的なアプローチでバキバキにソロを回しながら演奏、しかもジョーディーによる即興の指揮もあってスリリング極まりない。ベストアクトかも。
ANGINE DE POITRINE
水玉模様のかぶりものというインパクト強すぎるルックスで、女性を中心にめちゃくちゃ注目されていた自称333歳の宇宙人2人組。
ヘヴンでは初めて味わったかもっていう入場規制のため、冒頭の20分ほどは見れず。
ただ、音のほうはポピュラリティーとは縁遠いド変態。
普通のギターはピアノと同じく半音単位で音が区切られているが、彼らはそれを半音以下の単位で区切った特製のギターを使っているため、気持ち悪い音階を奏でることが可能。
また、ルーパーを駆使して、ベースラインとギターリフとギターソロを順番に重ねていくんだけど、使い方がめちゃくちゃ上手なため、ルーパー特有の展開の単調さからは無縁。
ごくごく当たり前のように変拍子も頻発しており、自分で楽器を触る人にはヤバさがより深くわかるようになっている。

BUFFALO DAUGHTER
オレンジエコーの屋台で列に並びながらライブを見ていたら、前にいた白人アニキに話しかけられた。めっちゃファンキーでカッコいいね、このステージはもったいないね、日本では有名なバンドなの?みたいな。
そんなに有名じゃないけど、自分は大好き。90年代から活躍してるバンドだよ、って拙い英語で説明してるうちに、大学生の頃に心斎橋のクラブクアトロで初めてこの人たちのライブを見たときのことを思い出していた。
大野さんはベーシストとしてすごく尊敬しているし、ちょっととぼけたようなセンスの、それでいて強靭な音にはずっとやられてきた。この日も長尺の人力テクノでしっかりロックしていました。やっぱり大好きなバンド。
MASSIVE ATTACK
往年の名曲をヴォーカルも含めて生演奏で妖しく重苦しくダビーに演奏。
そしてスクリーンには、パレスチナ問題やテック企業による世論操作といったことを問題提起する映像が流される。
音楽に政治を持ち込むな、なんて意見がいまだに日本のSNS上には飛び交ってるけど、そんな議論はとっくに通り越した境地で、現実に起きていることを日本語字幕つきで訴えかけていた。
そのやり方に白けたり、居心地の悪さを感じたりする人も多いだろうが、そんなことも織り込み済みなんだろう。








