日々のお籠もりお疲れ様です。
こんなときは家にあるレコードとかCDを久々に棚からひとつかみしたくなりがち。
そして必然的に自分の音楽遍歴を見つめ直すことになりがち。
自分の場合、ここ最近ずっとGS(グループサウンズ)ばかり聴いていました。
GSっていうのは、1960年代後半から3年ぐらい続いた空前のバンドブームのこと。
1964年のビートルズの日本デビューに触発され、雨後のたけのこのようにたくさんのロックバンドが日本全国に誕生したのである。その多くは各地のジャズ喫茶や米軍基地でステージをこなしていた。
その中からレコードデビューしたバンドだけで100を超えるという。
それだけたくさんいたので玉石混交なのは仕方がない。
音楽にうるさい横須賀の米兵をうならせた叩き上げの実力派から、ブームに便乗したい芸能事務所がでっち上げた即席バンドまで実にバラバラ。
また、リスナー層がおもに10代の少女だったため、過度にメルヘンチックな歌詞世界だったり、ほとんどムード歌謡になってるような音楽性だったり、衣装も王子様みたいな感じだったりで、音楽好きを自称する男性や世間の大人たちからは十把一絡げにバカにされていた。
このあたり、ヴィジュアル系ととてもよく似ていると思う。
短命に終わったGSブームだったが、メンバーが自作した曲を自演するというビートルズ形式が日本に定着したのはGSがきっかけだったし、作家が提供した楽曲についてもそれまでの芸能界のしきたりだった専属作家の作品ではなくフリーの才能がたくさん登用されたことで、筒美京平や阿久悠やすぎやまこういちや村井邦彦といったのちの大作家が世に出るきっかけにもなったし、ブーム終焉後も歌手や俳優やミュージシャンや作家としてたくさんの人物を輩出したりもした。
ざっと挙げるだけで、沢田研二、萩原健一、岸部一徳、岸部シロー、堺正章、井上順、ムッシュかまやつ、ミッキー吉野、ルイズルイス加部、鈴木ヒロミツ、山口冨士夫、大野克夫、井上堯之、馬飼野康二、寺尾聰、安岡力也、加瀬邦彦、アイ高野、井上大輔、クニ河内、柳ジョージ…。
またリアルタイムではあまり音楽的に評価されていなかったGSだが、のちに多くのミュージシャンがGSからの影響を公言したりGSの曲をカバーしたりしていく。ユーミンがGSの追っかけをするために八王子から都心に通い詰めていたことは有名だし、ダウン・タウン・ブギウギ・バンドや近田春夫やクレイジーケンバンドなどなど、愛にあふれるGSのカバーをやる人は常に存在してきた。
特に1990年前後には「ネオGS」のシーンが盛り上がり、それまで一部のマニアの間でしか知られていなかった曲が「カルトGS」としてCD化されたりした。
自分なんかはネオGS以降のリスナーなので、カルトGSシリーズや海外の怪しげなコンピや和モノDJのミックステープでいろんな曲を知っていったクチ。一時期はかなりGSや和モノシーンに夢中になっていたもんだった。90年代末あたり。
それからも定期的にGSが聴きたくなる時期は巡ってきたし、レコード屋に行けばとりあえずGSの7インチを探してみることは習慣になってるんだけど、この数週間はかなり大規模なマイGSブームが到来したんですよ。
やっぱりなんだかんだ世情が不安定だしリモート勤務で息が詰まるしで、無条件に元気になる音楽を身体が求めてるんだと思う。
せっかくなので、この軽薄でがむしゃらで夢見がちで熱いGSのパワーをおすそ分けしたく、AppleMusicとSpotifyの2大サブスクでプレイリストを作ってみました。
GSに関してはいろんな人がいろんな切り口でこれまでもコンピを編集してきたわけだが、今回は自分なりに3つの切り口でまとめてみた。
(Spotifyには存在しない楽曲がいくつかあったので、両方聴ける人にはAppleMusic版を推奨します)
プレイリスト1:Beat of Group Sounds
まずはここから聴いてください。
ジャンルで言うとガレージとかサイケとかブリティッシュビートとかR&Bあたりの、海外のマニアにも人気が高い楽曲たち。
とにかくもう昭和の若さが爆発してる。「若さ」っていうのは彼ら自身の年齢の若さもそうだし、日本におけるロックバンドという形態そのものがフレッシュでベンチャーで手つかずのジャングルって意味での若さもそう。
英米のカッコイイロックを、どうやって日本向けにローカライズするかという、創意工夫が最高。
日本語ラップ黎明期のK.U.F.U.精神が大好きな人にはわかってもらえるはず。
プレイリスト2:Cover of Group Sounds
次はGSバンドによるカバー曲を集めたこのプレイリスト。
今みたいに楽器の奏法が手軽に学べるわけでもなく、エフェクターすらほとんどない状態で、レコードで聴いた海外のサウンドにみんながみようみまねで挑戦してる感じね。
GSはそこがもう最高に愛しい。
あとは日本語カバー率が高いのもうれしい。
自分がゴーゴーガールになったつもりで部屋で踊りまくりましょう。
プレイリスト3:Dream of Group Sounds
最後にこれ。
GSが女子供のものだと見下される要因となったメルヘンチックな歌謡曲路線の曲。
メンバー本人も、作家からこういう曲を提供されて渋々演奏していたりもする。レコードにはしたけどライブでは一切演奏しなかったりとか。
だけど、GS愛が深まっていくと、この路線もふつうに愛せるようになるんだよな。
サブカルな楽曲派を気取ってアイドルを聴き始めたものの、いつの間にか現場でヲタ芸を打ちやすい曲も好きになっちゃう、あの感じに似てる。
自分が女子高生になったつもりでうっとりしまくりましょう。
サブスクで聴ける代表的なグループ
少ないとは、いえすでにサブスク化されているグループもいくつか存在する。
当時アルバムをリリースするところまでいった人気グループが10ちょっといたんだけど、そのうちの半分ぐらいはサブスク化されてるってことになります。
ゴールデンカップス
メンバー全員ハーフだというふれこみでデビューした、横浜の不良バンド。
とにかく演奏がキレまくってる(特にベース)のと、カバーのセンスが秀逸。
それでいて作家に提供された歌謡曲シングルも悪くないという、音楽好きにとっては最強のGSバンド。
全アルバムがサブスクで聴ける。ほんとにいい時代になったと思う。
テンプターズ
歌謡曲的メロディとロックなビートが同居する佳曲が多い。
それでいてメンフィス録音のラストアルバムはGSというよりソフトロックやソウルとして素敵なやつだったりする。
カーナビーツ
ギターがとにかくファズを多用するため、海外のマニアから人気が高い。
ドラム&ボーカルのアイ高野が甘い歌声で歌うスタイルは後のCCBにも影響を与えているかも。
モップス
アメリカ西海岸のサイケデリック文化を本格的に日本に輸入したバンド。
鈴木ヒロミツのワイルドな魅力とサイケな曲調がマッチしている。
海外のマニアからの評価が高い。
GSブーム終焉後もロックバンドとして活躍し続けた。
オックス
GSの少女趣味な面を象徴するようなグループ。
キーボードの赤松愛の失神パフォーマンスが有名で、教育界やPTAの目の敵にされていた。
謎の海外コンピ
90年代にヨーロッパでリリースされた謎のコンピが何種類か存在している。
権利関係がどうなってるのか本当に謎なんだが、なんとちゃっかりサブスク化もされていた。
スパイダースの「なればいい」が「Nati Bati Yi」と表記されていたり、モップスの「ベラよ急げ」が「Haiku」と表記されていたり。
アナログのみで流通していた時代にはバレてなかっただけかもしれないので、もしかしたらそのうち聴けなくなるかもしれない。
サブスク化されていない有名グループ
今回のプレイリストはサブスク化されてる楽曲のみで選曲しているので、GSの本当の実力の半分ぐらいしか発揮できていないということはご理解いただきたい。
有名どころでいうと、沢田研二や岸部一徳がいたタイガースと、堺正章や井上順やムッシュかまやつや井上堯之や大野克夫がいたスパイダースという、GSを代表するグループが公式にはサブスク化されていない(謎の海外コンピに一部の曲が収録されているのでそこから選びましたが)。
タイガースはGSのクラシカルでメルヘンチックな面を代表する曲がたくさんあるし、スパイダースにはブリティッシュなビートが効いたムッシュ作のかっこいい曲がたくさんある(ぜひ「恋のドクター」とか「メラメラ」とかを探し出して聴いてください)。
また、ネオGS以降に再評価されたダイナマイツも超重要。今回は海外コンピから「トンネル天国」を選曲したけど、「恋はもうたくさん」「のぼせちゃいけない」「恋は?」など他にもかっこいい曲はたくさんある。
そして、何よりも重要なのが、シングル数枚しかリリースしていないたくさんのグループたち。90年代のカルトGS再評価の流れで注目されたかっこいい曲がたくさんあるのです。
ムッシュやショーケンやジュリーやマチャアキといった、個の力が強い人の楽曲よりも、むしろブームとともに消えていったグループの楽曲のほうが、GSというジャンルを理解する上では重要だと思う。
「クライ・クライ・クライ」のエドワーズや、「赤毛のメリー」のガリバーズ、他にもムスタング、ボルテージ、クーガーズ、ヤンガーズ、と、挙げればキリがないんだけど。
ビクターやテイチクやフィリップスの人たち、ぜひこのあたりもサブスク化お願いします。
音楽を聴くメディアの変化にともなって栄枯盛衰はつきものだけど、アナログからCDの時代の変化に際しては、むしろGSの再評価が進んだ。アナログでは入手困難な音源がCD化されたおかげで聴けるようになったから。
しかし、このままだとCDからサブスクという変化のタイミングで、日本のカルチャー史からGSが忘れ去られてしまいかねないよね。
こんなにも軽薄でがむしゃらで夢見がちで熱い国産のロックが50年前に存在したってことは、語り継いでいかないともったいない。