森の掟

J-POPやメタルやフェスや音楽番組なんかの批評(という名の無益な墓掘り行為)

実は今年もフジロックに行ってきた

実は今年のフジロックに行っていました。

 

最終日8月22日の1日券をずっと前に買っていたんだけど、当日の朝まで行くかどうか決めかねていて、発券もしていなかったほど。

で、いろいろ考えた末に行くことにした。

 

2020年は開催されず、2021年も入場者数を半数以下に減らして国内アーティストのみで開催するということになったフジロック、ラインナップが発表された時点では新型コロナの感染者数はここまでじゃなかった。

開催される頃にはワクチンも行き渡って、状況も落ち着いてるんだろうななんて楽観視していたんだけど、落ち着くどころかどんどん状況はひどくなり続けて当日を迎えてしまった。

 

去年の夏、延期を決めたときよりも間違いなく悪化しているので、なぜ去年は延期で今年はやるのかっていうツッコミはもっともだと思う。

 

 

ただ、去年よりも悪化しているのは感染状況だけでなく、音楽業界、特にライブやフェスにかかわる部分の景気もそう。ライブハウスはどんどん潰れ、音楽にかかわる人がどんどん仕事を失っている。

にもかかわらず国からの補償は全然ないらしく、このまま中止したら二度とフジロックはできなくなるかもしれない。だったらできる対策をすべてやった上で開催するしかない、たとえ猛烈な批判を食らったとしても、という状況だったと思われる。

 

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いつもどおりのようにも見えるけど、ステージ前方足元にはディスタンスの目安を示すマークが

 

オリンピックと同じなのか

オリンピックには反対していたのにフジロックには行くのかよ、っていう、なぜか嬉しそうなテンションの批判も聞こえてきた。

オリンピックは無観客なのにフジロックは有観客っていうのもツッコミどころだろう。

 

数万の人が集まることで直接的に感染源になってしまうという面では、有観客というリスクは高すぎるというのはわかる。

経済的な理由で開催したいのであれば無観客で有料配信にしてはどうかという意見もあった。

 

それでも、世界中から選手やスタッフが集まるオリンピックと、国内アーティストと日本の観客のみで行うフジロックのリスクは単純な比較が難しいと思う。

また、どちらかというと懸念されていたのは、「オリンピックもやってるんだから」という油断したムードが世の中に広がることだったと思う。

 

いろんな意味で単純な比較は難しいけれど、自分にとって最大の違いは「信頼」のひとことに尽きる。

 

つまり、招致のために裏金を使ったり、開会式の演出プランを理不尽に潰したり、8月の東京はアスリートにとって理想的な環境だと嘘をついたり、いつの間にか当初の何倍にも予算が膨れ上がっていたり、そういったことがあったのに、納税者、特に都民に対してまともに説明をしない国や組織は、信用することができない。

 

自分が知っている限り、フジロックの運営体制でそういった話は聞いたことがない。

代表の日高氏をはじめ、ことあるごとにきちんと説明をしようとしてきたし、われわれ観客だけでなく、地元の湯沢町とも時間をかけて信頼関係を築いてきたという話も聞いている。

あれだけの規模のイベントごとで、ここまで顔が見えるのって結構珍しいことだと思う。

そうやってこれまでフジロックが築いてきた信頼関係の貯金があったので、最終的に参加しようと思ったのだった。

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よらしむべし知らしむべからず

「民はこれに由らしむべし。これを知らしむべからず」という有名なフレーズがある。

2500年前に孔子が言ったとされる言葉。

 

これ、「民衆には細かいことをいちいち説明する必要はなくただ従わせればよいのだ」という意味だと思ってる人が多い(自分もかつてそう思ってた)んだけど、実は「べし」の意味が違うらしい。

実際には、「民衆は従わせることはできるけど細かい内容まで伝えることはなかなかできないよね」っていうことなんだと。

 

新型コロナに関するいろんな情報が飛び交う昨今、よくこの言葉を思い出してた。

つまり、結局われわれ公衆衛生学の素人には、何が正しい情報なのか知ることができないなと。そうなると結局、アナウンスしている人を信頼できるかどうかで判断するしかない。

 

(たしかに最低限の科学リテラシーがないと、信頼する相手を思いっきり間違ってしまって「ワクチンにマイクロチップが埋め込まれていて接種したら洗脳される!」みたいな思想に染まってしまうリスクがあるので、まったく無防備でいるのもダメだけど)

 

都合の悪い情報を隠そうとする前科がある組織がいう安心安全と、できるだけオープンであろうとする組織がいう安心安全では、信頼度がまるで違う。

 

そういった意味でフジロックは「よらしめる」ことにある程度成功したと言える。

ただ、「よらしめる」ことができたとして、その中身が間違っていたかもしれないという話は別でするべきで、それについては今後の検証が必要だと思う。

たとえば参加者に無料配布された抗原検査キットがザルだという指摘はある。

 

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アーティストからのコメント

今回フジロックが開催されたことについて、様々な意見が飛び交った。

その中でも特徴的だったのが、出演者からのいくつかのコメント。

 

直前になって出演を取りやめたアーティストもいたし、悩みぬいた結果出演することに決めたけど本当にこれでいいのかいまだにわからないと葛藤しまくりのコメントを出すアーティストもいた。

当日のライブ中に生の言葉で説明したアーティストもたくさんいた。

 

それらの言葉のひとつひとつが真摯なものだと思うし、出ることにしたアーティストと出ないことにしたアーティストのどちらも、それぞれに筋が通っていると思う。

そしてそこには分断はないように見えている。

 

 

 

 

 

 

 

分断があるとしたら、外部からの無責任な声との間にあるんだろう。

人によっては、つい最近オリンピックに対して自分が投げかけていた声がこれと同じだったことに気づいて、ダブスタ具合に苦しくなったかもしれない。

結局、人は当事者にならないと重みがわからないって話なんだろうけど、そこまでまじめに受け止めてしんどくなることもないかなとも思う。

 

 

そういったことはありつつ、出演者からいろんな言葉が出たことそのものを、実はすごく頼もしく思っている。

 

やっぱりミュージシャンという人種は人一倍めんどくさい人たちで、なんとなく空気に流されたり大人の言われるがままに動くことをよしとしないんだなと。

この局面で出るか出ないかを決めるにあたって、一言言わずにはいられないんだなと。

ネットでの炎上に対する先回りしたエクスキューズっていうニュアンスはなく、自分に筋を通したいという思いが伝わってきた。

 

比べるのもおかしいのかもしれないけど、「いろいろ考えましたがオリンピックに出ることにしました、なぜなら〜」とか「この状況でオリンピックに出るという判断がどうしてもできませんでした」みたいなコメントはアスリートから出なかったわけで。

 

自分はバンドマンだったけどアスリートだった経験はないため、あくまで片方の世界から見た想像でしかないけど、スポーツって「余計なことは考えず競技に集中するべき」みたいな感じになるからだろうか。

実はその「余計なこと」の部分がめちゃめちゃ重要だったりすることもあるだろうに。

 

思い起こせば、2016年のフジロックをきっかけに「音楽に政治を持ち込むな」の議論がまきおこったことがあったけど、あれって2021年の状況から眺めると、なんとも牧歌的な状況だったなと思ってしまう。

 

今回わかったように、音楽に政治はとっくに持ち込まれている。

フジロックに出ると決めたこと、出ないと決めたこと、何か発言すること、何も発言しないこと、このどれもが広い意味での政治だし、狭い意味で言っても、国が補償するかしないかで音楽業界の命運がはっきり分かれている。

国によっては、ライブやフェスができない間の補償がしっかりもらえているわけで。

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もうひとつ信頼していたもの

自分が今回フジロックに行くことにした理由のもうひとつが、フジロッカーへの信頼。

 

昔からフジロックは世界一クリーンなフェスだなんて言われており、ゴミのポイ捨てがとにかく少ないし、みんな食器類やペットボトルなどは指示通り徹底的に分別して捨ててる。

お互いに助け合う文化みたいなものもあるし、自分もそうだけど苗場にいる間だけはみんないつもの3割増しぐらいで意識高くなる。

 

なので、ただでさえ意識が高くなりがちなフジロックなのにこの状況下ではさらにみんなちゃんとするだろうなと思ったのです。

 

だから常時マスクや黙食や禁酒やソーシャルディスタンスといったルールについても、おそらくみんなちゃんと守るんだろうなと。

 

実際、自分が見た範囲ではみんなディスタンスをとっていたし、マスクなしで歩き回ってる人は見かけなかったし、ステージに対して歓声を上げる人もひとりもいなかった。

 

なんてったって、あのGEZANのものすごいライブのときもモッシュが発生しなかったし、ピエール瀧がどんなに煽ってもみんな声を上げず手振りだけで反応していたし、ほんとにちゃんとしてたと思う。

 

電気グルーヴが終わってみんなが一斉に会場外に向かったときは正直、人との距離はかなり近くなっていたけど、オープンエアなぶん、朝の新宿駅南口の乗り換えやオフィスビルのエレベーターなんかよりもよっぽどマシだと思った。

 

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少子化と経済の落ち込みにより、海外のアーティストが当たり前のように来日公演をしてくれる時代はいずれ終わってしまうかもしれない。

そうなるとほとんどの日本人は海外のアーティストのライブを見たくても見れず、一部の金持ちがシンガポールや上海あたりまで遠征するようになるだろう。

 

日本の中でも、超メジャーなアーティストと、超インディーなアーティストに二分化していき、音楽で食える人数はこれからも減り続けるだろう。

 

そういう時代の流れは避けられないと思っているので、フジロックサマソニのようなトップランナーにはがんばっていただいて、少しでもその日が来るのを先延ばししたい。

単独公演は難しいけどフェスのヘッドライナーなら来日できるっていうケースは、すでにたくさん発生しているだろうし。

 

とりとめのない文章になってしまったけど、2021年のフジロックが開催されたことが、プラスになってくれることを心から願っています。

2022年の開催はアナウンスされたのでひと安心。

 

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