森の掟

J-POPやメタルやフェスや音楽番組なんかの批評(という名の無益な墓掘り行為)

「くそくらえ節」から「うっせえわ」に至る反抗のJ-POP史(1968-2021)

2020年の流行語大賞TOP10に選ばれた「うっせえわ」。

 

世間や大人たちが押し付けてくる価値観に対して「うっせえわ」と言い返す歌詞がキャッチーなメロディに乗ったことで、Youtubeでは再生回数が2億回を超えた。

 

幅広い世代に届いてしまう国民的ヒットの宿命として、こんな歌詞は子供に悪影響ザマス!と心配する大人たちもあらわれる。

親や教師からのしつけや教育に対して「うっせえわ」と言い返すようになるんじゃないかという不安をかきたてたみたい。

 

一方で、尾崎豊「15の夜」と対比して昭和の若者との違いを論じる人もいた。

確かにこの曲は、かつてよく見られた「反抗する若者の歌」の系譜に位置づけられると思う。

 

 

反抗する若者の歌

日本において若者むけのポップソングの市場が生まれたのは、1960年代。

当初は大人世代の作家が若者向けに楽曲を作っていたが、1960年代後半にはグループサウンズフォークソングのシーンから、アーティストによる自作自演の楽曲が出てくるようになる。

 

特にフォークソングにおいては、当時隆盛していた学生運動の気分と連動し、反体制のスタンスを明確に打ち出した曲が特徴的に見られる。

 

ある日学校の先生が 生徒の前で説教した

テストで100点とらへんと りっぱな人にはなれまへん

くそくらえったら死んじまえ

くそくらえったら死んじまえ

この世で一番えらいのは

電子計算機

岡林信康 「くそくらえ節」(1968)

 

 

フォークソングに見られた60年代の反抗は主に京都や東京の大学生周辺のカルチャーだったんだけど、やがて80年代まで時代が下ってくると、反抗の歌の裾野が広がってくる。

 

まずはセックス・ピストルズやクラッシュらによるパンクロックがロンドンで勃興してから数年後、日本にもパンクバンドが登場し、本家よろしく反抗の歌をたくさん残すようになる。

 

俺たちゃ こんな汚ねぇ
社会を ぶっ潰したいのさ

あいつが怖くちゃ
やりてぇことも出来やしねぇぜ

あんたを縛る法律なんて
蹴っ飛ばしちまえ

あいつの敵になってあげる
イタズラ気分で

亜無亜危異「アナーキー」(1980)

 

 

学校への反抗

また、80年代といえば校内暴力とツッパリの時代。

3年B組金八先生』『スクール・ウォーズ』といったドラマでも描かれたように学校がとにかく荒れていた。

 

そんな中高生の気分に寄り添ったのが、後に氣志團が「ヤンクロック」と名付けた楽曲たち。

 

シッポをまかず うなってみせな

SCHOOL OUT やっちまえ 今すぐ

SCHOOL OUT やっちまえ

BOYS AND GIRLS

BOOWY「SHOOL OUT」(1982)

 

 

「何も理解せず頭ごなしに押しつけてくる教師たち」 VS 「はみ出し者だけど本当に大事なものがわかっているオレたち」という構図の曲がたくさんリリースされた時代。

 

たしかに、70年代から80年代にかけてのいわゆる「管理教育」や教師による体罰が問題視されていたことも事実なので、特に不良というわけでもない若者たちにもこれらの楽曲は幅広く共感を生んだ。

 

卒業式だというけれど 何を卒業するのだろう

チェッカーズギザギザハートの子守唄」(1984

 

行儀よくまじめなんて クソくらえと思った

夜の校舎 窓ガラス壊してまわった

尾崎豊「卒業」(1985)

 

ただ大人達にほめられるような バカにはなりたくない

THE BLUE HEARTS「少年の詩」(1987)

 

J-POPは反抗したか

80年代末期、ニューミュージックがJ-POPと呼ばれるようになってくると、教師に反抗するような歌は絶滅する。

 

いろんな原因はあるだろうけど、最大のものは、レコードやCDをたくさん買うボリュームゾーンだった団塊ジュニア世代(1970年代前半生まれ)の反抗期が終わったことなんじゃないかとにらんでいる。

 

反抗期が終わった団塊ジュニアはにわかに色気づき、ユーミンとんねるずホイチョイプロダクションに煽られて恋愛市場に身を投じていく。

 


一方で学校教育は管理教育や詰め込み教育への反省から、ゆとり教育や個性を重視した方向性へシフトチェンジしていく。

 

そうなるともはや学校は反抗する対象ではなくなってくるわけで、それはすなわち若者の視野で認識できるわかりやすい敵らしい敵がいなくなってしまったことを意味する。

 

ただ、そんな時代にも若者特有の葛藤や生きづらさはあった。

そしてJ-POPはそんな若者にしっかり寄り添ってきた。

 

それまでとの違いとしては、具体的な敵が見えなくなったということ。

 

everybody goes everybody fights 

秩序のない現代にドロップキック

 

Mr.Children「everybody goes〜秩序のない現代にドロップキック〜」(1997)

 

こんな感じで「現代」なんていう大きすぎる相手と戦ってみたり。

何なら敵が見えないけどとにかく戦ってみたり。

 

見えない敵にマシンガンをぶっ放せ Sister and Brother

天に唾を吐きかけるような 行き場のない怒りです

 

Mr.Children「マシンガンをぶっ放せ」(1996)

 

J-POPは全体的に反抗していないけど、数少ない戦ってる事例でもこのありさま。

 

葛藤や生きづらさは外側にではなくどんどん内側に向かっていたのが90年代以降の特徴だと言えるだろう。

自分自身の弱さが最大の敵、みたいな。

 

反抗する相手も言葉も持ちえないまま、J-POPは90年代後半に全盛期を迎える。

 

バビロンシステムへの反抗

一方、90年代頃から少しずつ日本に根づいていったレゲエやヒップホップでは、しっかりとした反抗の文化が息づいている。

 

レゲエやヒップホップの反抗の文化を象徴しているのが、両ジャンルに共通して見られる「バビロン」という特徴的なワード。

 

ここでいうバビロンとは、元々ジャマイカのラスタ思想からきた言葉で、警察や国家などの抑圧的で非人間的なシステム、体制のこと。

 

バビロン的なものに対して戦っていくというレゲエやヒップホップの正統的なスタンスは、日本のアーティストにも引き継がれていて、もはやガチな人たちだけでなく、ノベルティ的にレゲエやヒップホップを扱った楽曲においてもバビロンへの反抗が歌われるレベルにまで定着した。

 

遊助という名義を名乗り、レゲエ寄りの音楽性で活発にアーティスト活動を繰り広げている上地雄輔

 

Go way 硬い頭のシステム

Some day 壊せバビロン Shake it

遊助「Sexy Lady」(2017)

 

 

『Paradox Live』(パラドックスライブ)という、声優を起用した音源や舞台などに展開しているHIPHOPメディアミックスプロジェクトの中の1曲。

Paradox Live(パラライ)公式サイト

 

腐り切ったバビロンシステム

鎖ぶった切るこれがアンセム

 

武雷管「BURAIKAN is Back」(2021)

 

「うっせえわ」が新鮮だった理由

とはいえ2010年代以降も若者の反抗はずっとおとなしく、もっぱら坂道グループだけが担っていたと言っても過言ではない。

 

どうして学校へ行かなきゃいけないんだ

真実を教えないならネットで知るからいい

 

友だちを作りなさい スポーツをやりなさい

作り笑いの教師が見せかけの愛を謳う

 

欅坂46「月曜日の朝、スカートを切られた」(2017)

 

上記のような例もあったにはあったが、良識的な大人たちが眉をひそめるようなレベルではない。

反抗的な流行歌は、平成から令和にかけて長らく出てこなかった。

 

団塊ジュニア世代の反抗期が終わって以降、暴発する若者のエネルギーが社会問題になるようなニュースはどんどん減っている。

 

というのも、少子高齢化がどんどん進行していく中で、日本社会における若者の存在感がものすごく小さくなっているわけで、世の中にある程度のインパクトを生むようなボリュームをもはや保てていないんだからしょうがない。

 

日本の全人口の平均年齢は、1980年には約34歳だったんだけど、2020年にはなんと48.4歳になっているという。

 

そんな時代に、「うっせえわ」は久々にめちゃダイレクトに大人に反抗する歌だったからここまで目立ったんだろう。

 

「結局そんなことを気にしている自分が一番ダメなんだけどね」みたいな内省に戻ってくる回路というか予防線をつくらず、ひたすら外に外に向かってるところが特にすばらしいと思いました。

 

オトネタ大賞2021

2021年に数々の賞を受賞したAdoですが、僭越ながらわたしも「オトネタ大賞」を差し上げています。

芸人・ミュージシャン・俳優のマキタスポーツさんと、ラッパーのカンノアキオくんとハシノの3人でやってる恒例の企画。

 

他にも、氷川きよしDEENMISIAHiHi Jets、島津亜矢、オレンジスパイニクラブ、Creepy Nuts、Vaundyなども取り上げて、2021年のJ-POP界をたっぷりと振り返りました。

こちらもよかったらご覧ください。

www.youtube.com

 

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