森の掟

J-POPやメタルやフェスや音楽番組なんかの批評(という名の無益な墓掘り行為)

「関ジャム」の『J-POP20年史 2000~2020プロが選んだ最強の名曲ベスト30』で10年代が手薄だった理由

2021年3月3日にテレビ朝日で「関ジャム 完全燃SHOW」のゴールデン特番として、『J-POP20年史 2000~2020プロが選んだ最強の名曲ベスト30』が放送された。

 

ここでいう「プロ」とは、いしわたり淳治いきものがかり水野良樹ヒャダインもふくちゃんといったこの番組おなじみの作家・プロデューサーや、スカパラ谷中敦ゴールデンボンバー鬼龍院翔岡崎体育といったミュージシャンたち。

 

彼彼女らが選んだランキングを総合して、最強の名曲ベスト30としてまとめられたのがこちら。

f:id:guatarro:20210306185842j:plain

 

1位にOfficial髭男dismが入ってきたのが意外だったり、SMAP以外のジャニーズやLDH勢、日本語ラップなどが選ばれていないというのも結構驚き。

番組を見ていると、楽曲としての完成度とか、革新性、売上枚数では測れない浸透度みたいなものをものさしに選んでいるプロが多かった感じだった。

 

あとこの30曲を見ていると気づくのが、年代の偏り。

サザン、椎名林檎バンプキリンジSMAPらのゼロ年代前半と、あいみょん、YOASOBI、米津玄師らの10年代後半に、明らかに集中しちゃってる。

選曲したプロたちが申し合わせたかのように、2010年の前後数年間が手薄なのです。

 

今日はこのことについてちょっと考えてみたい。

 

理由① 選者の世代の偏りが反映した

全員のプロフィールを確認したわけじゃないけど、今をときめく現役のクリエイターということで、30〜40代の世代が中心っぽい。

つまり、今から20年前のゼロ年代前半には10〜20代前半だった人たちであり、自分がリスナーとして多感な時期に出会った曲を選びがちという傾向はどうしてもあるだろう。

 

逆に、その世代の人達は10年代前半にクリエイターとしての出世作を手がけていることが多いだろうけど、自分が関わった作品は推しづらいわな、と。

10年代前半に紅白にも出たようなゴールデンボンバー「女々しくて」やいきものがかり「ありがとう」、ももいろクローバー行くぜっ!怪盗少女」あたりが30位に漏れているのはそういうことかなと。

 

理由② 古いと伝説になり、近いと記憶が新鮮、結果として間が埋もれる

リリースされて時間がたったものは「伝説」として評価が定まりやすく、一方で近年のものはまだ記憶が新鮮で想起されやすい。

10年ぐらい前のものは、そのどちらでもなく中途半端な状態なので、こいういうときに埋もれてしまいがちではないか。

 

野球選手でいうと、伝説になってる野茂、リアルタイムでやってる大谷翔平はランクインしやすく、間の松坂が埋もれるみたいな感じ。

なまじ最近の松坂を見てしまうと、全盛期にどれだけ凄かったか思い出しづらくなってしまうって効果もありそう。

 

理由③ 番組としてマイナーすぎるものは選びにくい

ゴールデンタイムの地上波で流れる番組として、視聴者の少なくとも半分以上が知ってる曲じゃないとつらい。

家族で見ていて、40代の親世代がゼロ年代の曲を全部知ってて、子供世代が10年代の曲を全部知ってる感じ。

「へー、この元ちとせって人ヤバいね」とか「あいみょんだったらパパもわかるぞ」みたいなね。

 

選曲を任されたプロたちもそこはわきまえてるはずで、一定以上の知名度がないと推しづらいって気持ちはあっただろう。

 

番組前半で31〜50位を紹介してるとき、40位ぐらいにあまり知られてないBank Bandの曲が入っていてスタジオが微妙な空気になったが、あれが限界であろう。

 

つまり、10年代前半にJ-POPのレベルが落ちていたわけじゃなく、お茶の間レベルで浸透した曲が少なかったということだと思う。

 

理由④ オリコンがハックされていた

10年代前半といえば、CDが売れなくなって、でもそれに代わる指標がまだない過渡期。

 

わたくしかつてブログで平成のJ-POPを7つの時代に区切って分析した際に、2009年から2012年を「AKB期」と名づけて、こんなふうに表現していた。

 

このあたりから、オリコンCDランキングを見てもシーンの動きが一切わからなくなってくる。AKBグループが総選挙の投票権をCDにつけたのと、AKB以外でも同じタイトルのシングルを初回版A/初回版B/通常版みたいな感じで複数の形態でリリースするのが当たり前になってきたため、1人で何枚も同じCDを買うようになったから。

かつてのミリオンセラーは100万人の買い手が確実にいたし、そこから口コミや歌番組などを通じて認知がさらに拡大し、最終的に2000万人ぐらいが知ってるレベルの存在感があった。しかしこの時代のミリオンセラーは、買い手が下手したら5万人ぐらいしかいないし、歌番組などで知らない曲にふれる機会も少ないので、いいとこ50万人ぐらいの認知にとどまっていても不思議はない。

平成のJ-POPを7つの時代に分けてみたらいろいろ見えてきた 〜LL教室の試験に出ないJ-POPイベントふりかえり - 森の掟

 

本当にこの時期のオリコンチャートを見ると、上位にはAKBグループかジャニーズしかいない。 

 

水面下ではおもしろい動きがたくさんあったんだけど、いかんせんチャートの上位に入ってこなかったために、関ジャムに取り上げられるような名曲として残ってこなかった面もあるだろう。

やはりCDが投票券になったことの功罪について考えざるを得ない。

 

10年代前半に水面下で動いていたこと

10年代前半、オリコンチャートがAKBとジャニーズに席巻されていた頃に、水面下ではいろんなことが動いていた。

 

ももクロ以降のアイドルシーンの活性化により、でんぱ組.incNegicco、BiS、東京女子流などなど、楽曲のクオリティが高いグループがたくさん登場。ハロプロモーニング娘。アンジュルムを中心にファン層を拡大していく。

 

・俗に東京インディーと呼ばれるシーンでスカート、シャムキャッツ、片思い、思い出野郎Aチームといったバンドが作り上げた音が、その後「ネオシティポップ」なんて名前でメジャーな場所で商品になるサウンドに反映されていく。

 

日本語ラップKREVAANARCHY、般若、田我流、SIMI LAB、鎮座DOPENESSなど数々の才能が活躍し、2015年の「フリースタイルダンジョン」をはじめ、10年代後半からメジャーな場所で取り上げられる機会が増えていく。

 

・2007年にリリースされたボーカロイドソフト「初音ミク」を使って楽曲を制作しネット上で発表する「ボカロP」が10年代前半にたくさん登場。米津玄師もその中のひとりで、10代がカラオケで歌う人気曲の多くがボカロ曲になっていく。

 

これらの流れがそれぞれに熟成され、メジャーな場所に浮上したり、間接的にJ-POPのメインストリームに影響を与えたりしてきたのが10年代後半。

 

いずれも最初はテレビや芸能界とは関係のない場所で起こっていた動きなので、オリコンチャートとテレビの音楽番組だけを見てる人には感知されづらかっただろう。

 

老若男女に幅広く届く曲がないという話は90年ぐらいからずっといわれてきたけど、それがいよいよ極まってきたのが10年代ってことかもしれない。

 

でもなんだかんだいってSuchmosとか星野源みたいにインディーズシーンからお茶の間レベルの人気者が出てきたり、「パプリカ」とか「夜を駆ける」とか「うっせえわ」みたいなボカロP畑の曲が国民的ヒットになったりしているここ数年は、やはり10年代前半にまかれた種が育ってきた感じがする。

 

名曲の「風格」

そんな感じでここ20年でJ-POPも移り変わりがあったけど、その一方で、時代によって変わらないものもある。

 

「国民性」という言葉はあまり軽々しく使いたくないけど、「関ジャム」で取り上げられた名曲を見てるとやはり「J」なりの特徴はあって。

 

まずやっぱみんなバラード好きだなって思う。

 

あと、ゲストの人たちが名曲を評価するコメントとして「結婚式で使いたい」とか「結婚式の定番」ってワードを頻発していたのがおもしろかった。

曲としての完成度とか革新性、歌手の技量とかといった要素がいくら揃っていても、このランキングに入りづらい曲っていくらでもありそうで、名曲に必要な「風格」みたいなものをなんとなく選者もゲストも感覚として共有していたっぽい。

 

もし自分がこのランキングの選曲者に選ばれたとして、どんな曲を入れるかっていうと、自分の味を出そうとしつつも、同時にできるだけ客観的な目線で文句なしの名曲を選ぼうとしてしまうだろうか。

つまり、視聴者の総意みたいなものを意識し、いかにも名曲然とした風格のある名曲を選んでしまいそう。

 

ということで、実際に自分でも選んでみました。

あいつら全然わかってないぜ、こういうのが真の名曲だ!みたいなスタンスではなく、番組の趣旨を汲み取った上で自分の色を出そうとしたんだけど、もっとメジャーな感じに仕上がるかと思いきや、自分に嘘はつけないなとこねくり回した結果、なかなかワガママな30曲になりました。

 

ワガママではあるけど、単に好きな曲っていう感じでもなく、やっぱり「風格」みたいなものは意識した。

 

お知らせ

わたくしハシノもメンバーの一員として活動しているLL教室というユニットで、2021年6月から1年間、美学校で口座を担当することになりました。

 

題して「LL教室の試験に出ないヒット曲の作り方」。

戦後日本の歌謡曲〜J-POPの時代ごとの流れやヒット曲の構造を読み解き、新たな時代のヒット曲はどういうものになるのかみんなで考えようという主旨です。

 

こういうタイトルではあるけど、売れ線狙いのテクニックを伝授するみたいなことではなく、ヒット曲を構成する要素を分析して捉え直すことで、より多角的に音楽を鑑賞できるようにするのが狙いです。

できる方には実際に作詞や作曲をしてもらって、たとえば昭和43年の大衆に響く曲を作ってみよう、みたいなことをやります。

 

詳しい話は下記ページをご覧ください。

われわれとしてはかなり気合が入ってます。よろしくおねがいします!

bigakko.jp