森の掟

J-POPやメタルやフェスや音楽番組なんかの批評(という名の無益な墓掘り行為)

Suchmosがおじさんに愛される理由とNHKに選ばれた理由(妄想企画会議シリーズ)

Suchmos(サチモス)が人気ですね。
ここ数年で出てきた日本の若いロックバンドはいろいろいるけど、Suchmosに関してはなかなか独特のポジショニングな感じ。

 

ものすごく雑なカテゴライズでいうと、いわゆる「シティポップ」の代表選手として、ceroとかnever young beachとかスカートとかと一緒にくくられてる様子。
若いひとにとっては、バンド音楽だけどWANIMAとかロキノン系みたいなのよりおしゃれなものとして感じられているのかなって。

ただSuchmosは、40代ぐらいの音楽好きおじさんたちにも熱い視線を浴びている(だから車のCMにも使われる)ところが、特異。


ジャミロクワイっぽさを愛でるおじさん

さんざん言われていることだけど、Suchmosジャミロクワイっぽい。
おじさんたちからするともう笑っちゃうぐらいジャミロクワイっぽい。

そしておじさんたちはパクリだなんだって目くじらをたてないので、ただただSuchmosジャミロクワイっぽさを愛でる。

 

自分が10~20代の頃に馴染んだ、いまも一番気持ちいいと感じるラインの音楽を、いまの若い人たちが演奏していて、いまの若い人たちが夢中になっているというこの事実。もうそれで十分。

 

当時のジャミロクワイ自体、70年代のファンクとかジャズのちょっと深いところをバックボーンにしており、結果的にものすごく売れたけど音楽性としてはもともとマニアックなものだった。

日本に「クラブ」の文化が定着してきた頃(=40代のおじさんが若かった頃)に、クラブでかかるようなおしゃれな音楽として認識されていたあたり。

 

そのおしゃれイメージをまとったまま、1996年の3枚目のアルバムは全世界で700万枚、日本でも140万枚という驚異的な売り上げとなった。おしゃれでありなおかつマス、というジャミロクワイか築いた最強のポジションは、そのままSuchmosが引き継ごうとしているかもしれない。


Jamiroquai - Virtual Insanity (Official Video)

 


NHKワールドカップ中継のあの曲

そんな感じで着々と音楽好きの若いひとと音楽好きのおじさんの両方を魅了しているSuchmosは、2018年サッカーワールドカップロシア大会のNHKのテーマ曲に選ばれた。

www1.nhk.or.jp

 

そして、日本VSコロンビア戦のハーフタイムに生ライブを披露。
これ以上ないアピールの機会となった。
が、ちょっと評判がアレだったよう。

biz-journal.jp

確かにこの曲はレコーディングで加えられた処理も含めての味わいなので、生ライブだと魅力を活かしきれないっていう問題はあった。
しかしそれにしても、そこまで叩かなくてもいいんじゃないかと思う。

 

少なくとも、サッカーに似合わないだなんて言われる筋合いはない。


「サッカーに似合う曲」とは

ここで、先ほどのNHKの特設サイトを見てみたい。

「アーティスト選考のポイント」という項目、つまりNHKSuchmosにオファーした理由が書いてある。

彼らが、世代や性別を超えて幅広く支持されるアーティストであることや、サッカーの魅力や感動を独特の表現力で伝えられることなどを最大のポイントとしました。

「世代や性別を超えて幅広く」は言い換えれば「J-POPにあまり関心がないうるさ型のおじさん層にも認められている」ということだと思う。

そして何よりも重要なのが「独特の表現力」というくだり。

 

Suchmosの「VOLT-AGE」を「サッカーに似合わない」って叩いてるやつに、じゃあサッカーに似合う曲ってどんな曲だよって聞いてみたら、おそらくかなりの確率で、BPMが早くてアガる曲って答えるんじゃないだろうか。
もしくは、大勢で合唱できるような曲って答えるか。
もしくは、サッカー=ブラジルのイメージでサンバとかラテンな曲ってか。

 

NHK内部でも当初はそういった声が高かったであろう。

しかし結局はSuchmosに賭けてみるという答えを出した。

そして仕上がってきたのが「VOLT-AGE」。

この流れが非常に興味深いので、例によって妄想妄想。

 

妄想企画会議 in NHK

NHKってところは、日本全国津々浦々を相手にしている。というか、NHKしか映らないまたはNHKしか見ないというド田舎の高齢者に配慮するため、基本的にものすごく保守的というか安全パイな選択をすることが多い。

しかしその一方で、スポンサーに遠慮する必要はなく、また視聴率に一喜一憂することもないおかげか、ものすごく尖ったことをすることもある。特にEテレなんかはサブカル人脈が大活躍しまくっている。

 

ワールドカップにSuchmosを起用するという判断は、それでいうと後者の面が出たのであろう。とはいえ、サッカーの曲といえばノリノリか大合唱かラテンかというイメージがあるなかで、おしゃれでクールなSuchmosに何を求めたのかという謎は残る。

 

この謎に対する仮説として、NHKのなかに30年前から海外サッカーを見ててしかも音楽好きっていうコアな人がいたのではないかと。

30年前といえばJリーグが発足する前。カズもヒデもいない頃。当時の日本人が海外のサッカーに興味を持つきっかけのひとつとして、英国のミュージシャンがサッカー好きだったからという経路があった。

そう。90年代のUKのロックスターはみんなサッカーが大好きだった。
ひいきチームのユニフォームとかジャージを着てライブする姿はUK音楽好きおじさんにはお馴染みだと思う。

 

たとえばニュー・オーダーという80年代のUKを代表するバンドが、1990年のワールドカップイタリア大会のイングランド代表のテーマ曲としてつくった「World In Motion」という曲。

当時の代表選手がラップしたりコーラスで参加したりしてる。日テレの読売巨人軍のテーマ曲で長嶋監督が歌ったのと同じである。


New Order - World In Motion (Official Music Video)HK

 

あとNHK内部の海外サッカー古参おじさんはニュー・オーダー以外にもこんな曲を引き合いに出したかもしれない。

 


The Lightning Seeds - Three Lions '98 (Official Video)

 

ライトニング・シーズっていうバンドが欧州選手権イングランド代表のために書いた曲。思わずみんなで大合唱したくなるサビの大きなメロディ!

 

どっちにしても、サッカーイコール南米イコールサンバっていう図式とか、BPMが早いほうが盛り上がるなんていう発送はちょっと安直であり、サッカーに似合う曲は別に南米に求めなくてもよくて、サッカーと音楽の本場であるイギリスにたくさんお手本があるのです!などとNHK内部の海外サッカー古参おじさんは力説したのではないか。

 

ワールドカップ中継のテーマ曲にジャニーズを起用した局もあるようですが、わたしに言わせれば愚の骨頂です。深夜にわざわざワールドカップ中継を見てくれるファン層は、圧倒的に30〜40代男性!ジャニーズなんて使ったらその人たちには嫌がられます。その点Suchmosは(以下略)…といった主張が認められ、晴れてSuchmosにオファーがいったのではないか。

 

オファーの際に、NHK内部の海外サッカー古参おじさんは上記のようなUKのアーティストとサッカーの蜜月のエピソードを話して、Suchmosメンバーと意気投合したかもしれない。Suchmosも俄然気合が入ったであろう。

 

そして仕上がってきたのが「VOLT-AGE」というわけ。

NHK内部の海外サッカー古参おじさんはこの曲をどう感じただろうか。

90年代のUKのイメージでってちゃんと認識合わせしたのになーって少しがっかりしただろうか。

 


「VOLT-AGE」を聴いて40代が感じること

たぶん、思ってたのとは違ったけど、これはこれで90年代のUKだよなーって感心したのではないだろうか。少なくとも自分はそうだった。

つまりこの「VOLT-AGE」という曲、さんざんジャミロクワイと言われ続けてきたSuchmosが示した新しい方向性がそっちであることを、40代の音楽好きおじさんとしてはとっても歓迎したいのです。

 

「そっち」とは、具体的にいうと90年代後半のUKのバンドが一定の方向に流れていった感じ。
1994年のストーン・ローゼズ「Second Coming」や1997年のプライマル・スクリーム「Vanishing Point」以降の音ってこと。

80年代末からのマンチェスタームーブメントを音楽的に牽引していた2大バンドが、90年代後半に打ち出した新しい方向性。
それまでよりも重く、同時期にUKのシーンを席巻していたトリップホップとかケミカル・ブラザーズプロディジーあたりの影響を感じさせるやつ。

 

「VOLT-AGE」には、その時期のにおいがものすごく濃厚に漂ってる。

1998〜2000年ぐらいかな。このあたりの音って「マッドチェスター」とか「アシッドジャズ」とかみたいに名前がついてないし、正直いって当時のUKロック好きにも評判がよかったわけではない。なんなら、UKロックの勢いが失われていく時期とさえ言える。

 

だけど個人的には、同時代の音楽をもっとも吸収しようとしてた年頃で、当時やってたバンドも音楽性がさわやかギターポップからそっちに寄っていってた。
当時からの友人(特にUKロックに詳しいわけではない)に、「Suchmosのあの曲さー、おまえが当時やってたバンドっぽいよな」って最近言われてたしかに!ってなった。

 

何よりベースなんだよな。ローゼスからプライマルに加入したマニって人がいるんだけど、当時自分がやってたバンドでめちゃめちゃ影響うけたんだけど、「VOLT-AGE」はベースがすげーマニ。
ちょっと歪んでる音色も、16分音符の使い方も、プライマル時代のマニなんだよなー。

 


ゼロ年代フジロックが苗場に移った頃、イアン・ブラウンプライマル・スクリームが常連かってぐらい何度も出演してた。当時20代後半だったわれわれは、かつてのストーン・ローゼスのメンバーがいろんなかたちで活躍していることにうれしくなりつつも、毎年のように彼らが出演するのでフレッシュさはもうない、っていうぐらいの温度感だった。

 

Suchmosの「VOLT-AGE」は、あの頃の苗場でグリーンステージとオアシスの間の斜面をグリーンカレーハイネケンをこぼさないように歩いてるときに大音量で聴こえてきたみたいなあの頃っぽさがある。

 

 

Suchmosありがとう。

そしてNHK内部の海外サッカー古参おじさんありがとう。

めざせ紅白。

 

 

というわけで最後に「VOLT-AGE」のベースがどれだけマニかを示す2曲を貼っておく。

どっちのバンドのファンもこの曲をフェイバリットに挙げることはほぼないだろうけど、Suchmosはなぜか2018年にこのラインを選んできた!


The Stone Roses - Love Spreads

 


Primal Scream - Kowalski