森の掟

J-POPやメタルやフェスや音楽番組なんかの批評(という名の無益な墓掘り行為)

すべてのJ-POPはリズム歌謡である

リズム歌謡という概念

「リズム歌謡」というのは、おもに1950〜60年代に流行した歌謡曲のスタイルというか枠組みのこと。

海外でヒットした「ニューリズム」を輸入し、歌謡曲の人気歌手に歌わせるという形式で、数多く制作された。

 

特定のリズムを強調する流れはおそらく1947年の笠置シズ子「東京ブギウギ」の大ヒットからのもので、笠置シズ子は「ジャングル・ブギー」「買物ブギー」「大阪ブギウギ」「ホームラン・ブギ」などのブギものを連発して「ブギの女王」とも呼ばれた。

 

 

その後、「マンボ」「チャチャチャ」「カリプソ」「パチャンガ」「スクスク」「タムレ」「ボサノバ」「ツイスト」「ブーガルー」など様々なリズムが輸入され、歌謡曲としてリリースされていく。

 

マンボブーム

マンボといえば誰もが想起する「マンボNo.5」は1949年の曲。

作曲したペレス・プラードは「マンボの王様」と呼ばれた。

 

もともとはキューバ音楽の新しいスタイルの呼び名だったマンボが、ペレス・プラードの影響で全世界的なブームになり、日本へも波及。1956年には来日公演もやっている。

 

今でもリサイクルショップやレコ屋でペレス・プラードのレコードは大量に見つかることから、当時の普及っぷりがうかがえるというもの。

 

日本人によるマンボで代表的なのがこの2曲。

美空ひばり「お祭りマンボ」(1952年)

トニー谷宮城まり子「さいざんす・マンボ」(1953年)

 

いずれもパーカッションが大活躍する軽快なダンスナンバーになっている。

 

マンボは音楽のスタイルとしては廃れたけど、その後も社交ダンスのスタイルのひとつとして現在まで生き残っているのが興味深い。

 

リズム歌謡の機能

 

リズム歌謡のレコードのジャケ裏には、踊り方の説明やステップの図が描かれていたりする。

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1965年の橋幸夫「あの娘と僕(スイム・スイム・スイム)」のジャケ裏より。

 

踊り方の説明とダンス講師の名前、ニューリズム「スイム」を仕掛けるビクターの楽曲群、そして東レの水着とのタイアップと、「リズム歌謡」がどのようなビジネスモデルだったかがこの1枚に集約されているようでとても興味深い。

 

この時代、ポピュラー音楽は「アーティスト」の「作品」を姿勢を正して鑑賞するというものではなかった。

 

そういう「まじめな」鑑賞がされるようになってきたのはおそらく1960年代後半のフォークソングの時代以降。

歌詞がことさら重要視されたり、歌手がアーティストと呼ばれるようになったり、そういった現代まで続く音楽への向き合い方が生まれる前、リズム歌謡は第一に踊ることを目的とした音楽だった。

 

すべてのJ-POPはリズム歌謡である

マキタスポーツ氏は「すべてのJ-POPはパクリである」と喝破した。

 

これは、かの大滝詠一の「分母分子論」をさらにカスタマイズした理論に基づいてたどり着いた境地。

あえて強い言葉で断言してみせたという面はあるにせよ、やはりJ-POPという音楽は程度の違いはあっても、総じてそういうもんだと思う。

 

大まかに言うと、J-POPと呼ばれている音楽は、アーティストの人格という分子と、規格(=音楽のスタイル)という分母からできているという考え方。

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ポピュラー音楽における、規格(=音楽のスタイル)の部分は、基本的にどこかからの影響でできている。そのこと自体は別に悪いことでもなんでもなく、昔からそういうもの。

ビートルズだってピストルズだってエイフェックス・ツインだってビリー・アイリッシュだってそうだけど、既存のスタイルに新しい解釈やカスタマイズを施すことで、フレッシュなものを生み出している。

(それを「パクリ」と呼ぶことで、いわゆるパクリ論争の不毛さへの批評にもなっているすごいタイトルだと思う)

 

謡曲〜J-POPにおいてその構造は顕著で、特に「リズム歌謡」っていうのはその構造が見えやすい。

リズム歌謡の曲名によくある、「(歌手名)の(リズム)」っていうパターンはこの規格分の人格がむき出しになっているわけ。

 

美空ひばり「ひばりのドドンパ」

田代みどり「みどりちゃんのドドンパ」

小林旭「アキラでツイスト」

 

つまり、すべてのJ-POPは「規格分の人格」の構造で読み解くことができるのであれば、リズム歌謡のフレームを現代J-POPに当てはめることも可能ではないか。

 

EXILEの歌モノEDM」

Suchmosのアシッドジャズ」

サカナクションのシティポップ」

 

 

リズム歌謡についてさらに掘り下げたい方へ

リズム歌謡の構造でJ-POPをとらえなおす話、あえてここまでにします。

 

この先はオンライン講座でさらに深堀りしていこうと思っています。

 

われわれLL教室、2021年6月から美学校でこんな話をみっちりやるオンライン講座を受け持っています。

 

「歌謡曲〜J-POPの歴史から学ぶ音楽入門・実作編」ということで、J-POPというものを戦後からの75年のスパンで捉えていく試み。

1回2時間の講義と、それを踏まえた作品作りを月イチでやっていきます。

 

つい先日、第1回目の講義をやったところなのですが、なんと、その1回目分をアーカイブ動画より聴講していただくことで、7月10日まで申し込みが可能となりました!

 

講座へは7月11日の2回目からの参加となります。

この機会に、歌謡曲〜J-POPの構造について、1年かけてじっくり掘り下げてみませんか!!!