森の掟

J-POPやメタルやフェスや音楽番組なんかの批評(という名の無益な墓掘り行為)

ビートルズの新譜が一気に6枚リリースされた件について

ビートルズの新譜が出てますが?

今年リリースされたビートルズの新しいアルバム、みなさんはもうチェックしただろうか。


まあほとんどの人がチェックしてないと思う。

 

そんなものリリースされてたっけ?という反応でしょう。

 

しかし、間違いなくリリースされています。しかも一気に6枚も。

 

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これAppleMusicのビートルズのアーティスト・トップページです。

つまりれっきとした公式。

オノ・ヨーコやポール・マッカトニーがお墨付きを与えてるはずのやつで、あの赤盤・青盤や「アンソロジー」と並ぶ公式ベストアルバムの地位を得ている。

 

そのわりに、世の中はまったく静かだったよね。

 

去年『アビイ・ロード』50周年記念エディションが出たときは結構なニュースになってたし、さかのぼれば1995年の『アンソロジー』がリリースされたときはもっとお祭り騒ぎだった。

ニュースステーション」で特集が組まれたりしてたよね。音楽好きにとってだけでなく、全国民的なイベント扱いだった。

ビートルズって解散から何十年を経ても世界中に愛される特別な存在なんだなと、強く心に刻まれたものだった。

 

 

それに比べて、この6枚の扱いはどういうことなのか。別に熱狂的ファンというわけでもない自分ですが、ビートルズの新譜ってそれぐらいの重みのあるもんなんじゃないの?って思う。

 

アルバムとはなんぞや 

ここ数年、AppleMusicやSpotifyなどのサブスクで音楽を聴くようになって、音楽に対する接し方や考え方がいつの間にかいろいろ変わってしまったみたい。

ふとした瞬間にその変化に気づかされて驚くことがある。

 

でもあともう何年かしたら当たり前になりすぎて、それまでのことを忘れてしまうだろう。

そうなったらもう自分でもサブスク以前の感覚をリアルに思い出せなくなってしまうだろう。

 

今から35年ぐらい前にCDが登場してそれまで主流だったレコードが廃れたときにも、いろんな変化があった。

 

自分は世代的にレコードで新譜が出ていた時代をギリギリ知ってるし、CDが主流になっていくときに音楽好きの大人たちがどんなことを嘆いたり心配したりしていたかを知ってる。


レコードにはA面とB面があるので、A面をどう締めくくってB面をどう始めるのか、A面とB面で雰囲気を変えるのか、それも大事な味わいどころだった。

それがCDになると、B面の1曲目というものはなくなって、ただの6曲目とかになった。

それを味気ないと嘆く大人は当時たくさんいた。

 

あとCDはジャケットが小さいので、アート作品という側面は薄れたとも言われていた。もちろん、音質についても、CDの音は温かみがないっていう声は多かった。

 


ただ、CDからサブスクへの移行は、レコードからCDどころじゃない大きな変化をもたらしている。

みんな自然に受け入れているけど、ちょっと考えたらすごいことがたくさん起こってる。

 

たとえばレコードであれCDであれ、1枚に収録できる時間に限界があったけど、サブスクにはそれがない。

その気になれば1,000曲入りのアルバムをリリースすることもできる。A面B面からCD何枚組に変化し、ついに無限へ。

 

あと「所有」という概念も変わった。

AppleMusicやSpotifyには毎月1,000円ほど払ってるけど、そのお金で買えるのはあくまで聴く権利だけ。

友達に貸すことやファイルとしてサンプリングしたり加工することもできない。

 

なので、去年の電気グルーヴのように、レコード会社の一存でサブスクから引き上げられてしまうと、みんな聴くことができなくなり、電気を聴くことがCDやレコードを所有している人だけの特権になったりした。

そういうことが起きる。

 

「アルバム」という概念とか、音楽を所有することとか、実はいま音楽好きにとってけっこう根源的な部分に大変化が起こっているわけ。

今回のビートルズの新譜の件もそこにつながってくる。

 

それってもはやプレイリストでは

2020年にAppleMusicやSpotify上にあらわれたビートルズの新譜は12/25時点で下記の6枚。

 

『At Home with the Beatles

The Beatles - Study Songs, vol.1』

The Beatles - Study Songs, vol.2』

The Beatles - Meditation Mix』

The Beatles - Got to get you into my life』

The Beatles for Kids - Morning, Afternoon & Night』

 

内容は、それぞれのテーマに沿ってビートルズの既存曲が1枚にまとめられたもの。

たとえば『for Kids』には「オブラディ・オブラダ」「イエロー・サブマリン」といった、子供が好きそうな人懐っこい曲が集められてたり。

ただそれだけのことで、特に新しいミックスだったり未発表テイクだったりするわけではなく、あくまで既存曲をテーマにそって集めてみましたっていう程度。

それって、サブスクならアルバムじゃなくてプレイリストでやれよって正直思う。

 

これをわざわざアルバムとしてやる意味がわからなかったんだけど、もしかしたら意味がわからないのはサブスク版しかみてないからで、CDでは豪華ブックレットとかキッズむけの特典がついていたりするのかなと慮ってみたり。

一応調べてみたんだけど、フィジカルでは特典つきとかそういうこともなく、むしろ上記6枚はフィジカルではリリースされないらしい。

 

ますます公式ベストアルバムとしてリリースする意味がわからない。

ジャケットも適当な感じだし、見た目にも中身にもがんばりが感じられないっていうか。

これってただのプレイリストじゃないの?

サブスクにおけるアルバムとプレイリストの違いって何?

 

マニア史上最大の危機

この、限りなくプレイリストに近いんだけど公式なアルバムとして発表された6枚のことを、世界中のビートルズマニアの方々はどう捉えているんだろう。

 

 

ビートルズに関しては、各国でリリースされたEPとかプレスされた時期とかにこだわってレコードを収集しているマニアは世界中に存在しているわけで、何なら海賊盤までも守備範囲にしてるわけで、そういう人たちはビートルズに関するものならなんでも集めたいだろう。中身が既存曲かどうかなんて関係ない。

 

行くとこまで行ったら1200万円っていうことにもなる。


そんなノリのマニア諸氏にとって、今回のリリースはどういう扱いになるんだろう。

コレクションの対象になるんだろうか。

 

あ、でもサブスクで買えるのはあくまで「聴く権利」なんだった!

つまりフィジカルでリリースされないアルバムは永遠にコレクションすることができない!!

1200万円払ってもムリ!

 

お金に糸目をつけずにレア盤を買い漁ることができる大富豪のマニアでも、所有できないアルバムまではどうしようもない。

これは完全に詰んだな。