森の掟

J-POPやメタルやフェスや音楽番組なんかの批評(という名の無益な墓掘り行為)

「温度差の観測」という、あたらしいフェスの楽しみ方

夏フェスのヘッドライナーが発表されはじめ、みんなの気持ちがそわそわしてきた今日このごろ。

今日は「温度差」に着目した新しいフェスの味わい方を紹介しようと思います。

 

フェスの多様化・大衆化混ぜるな危険!だけど混ざるのも醍醐味! 

90年代後半から日本に根付いてきた音楽フェス文化。

今ではだいたい5月から10月ぐらいまでの毎週末、大小様々な規模で日本のどこかでフェスが開催されてるといっても過言ではない。

 

ひとくちにフェスって言っても、規模や環境や出演ラインナップによって集まる人種や雰囲気がぜんぜん違う。

音楽好きだけどフェスに行かないっていう人はたくさんいるけど、話を聞いてみるとそういう人ってフェスに対して先入観あるじゃないですか。わりと一定のパターンのやつ。

でも現実のフェスはもっと多様で、ここ20年でいろんなパターンが出てきている。

 

海外のトップアーティストを招聘して数万人規模のキャパで開催されるもの、アウトドア系のアパレル企業がブランディング目的で3アーティストぐらいでちっちゃく開催するもの、過疎化が進んだ地域の自治体が町おこし目的で見よう見まねで開催するもの、レゲエやパンクやEDMなどジャンル特化型で開催されるもの、子育て世代をメインターゲットに居心地の良さを追求して開催されるもの、逆にアーティストの求心力に依存して居心地には一切配慮しないもの、などなど。

 

今や日本国内である程度以上の規模がある音楽シーンは、もれなくフェスに関わってる時代に突入している。またリスナーにとっても、かつてはごく一部の人が行く場所だったものが、今では誰もが気軽に行く場所へと認識が変わってきている。

 

ここまで大規模化し、多様化し、また大衆化してくると、フェスならではのいろんな興味深い事象が見られるようになる。

なかでも個人的にものすごく興味があるのが、ものすごく熱い人たちと平熱の人たちという、温度差が激しい二者が出会ってしまうことによるいろいろ。

 

ものすごく熱い人たちは、熱さゆえの独自のふるまいやカルチャーを生む。

いつもは熱い人たちだけがいる閉じた場所でそのカルチャーは育まれているんだけど、フェスの場ではそれがたくさんの平熱の人たちの目にさらされることになる。

 

そこでどんなことが起きるのか。

大きすぎる温度差が生む大規模な気象現象が観測できるのは、フェスならではでありましょう。

 

ラウドめなロックバンドの最前列にて

武道館や横アリや大阪城ホールなどのホールで単独公演をやれるクラスの、しかし音はちょっとラウドな感じのバンドたちの事例。

 

熱心なファンにとっては、昔はライブハウスでやってたのにビッグになったもんだと感慨にふけりつつ、ホールだと椅子席なので不自由だなと感じていたところ。

かたや、テレビや動画でしか見たことがなく、単独公演はすぐに売り切れるので行けなかったっていうファンたちにとっては、初めて生のライブを見る機会。

生が初めてっていうファンたちの中には、貴重な機会を精一杯味わいたくて猛暑のなか朝からがんばって最前列を確保する人も少なからずいて、みんな柵にしがみつきながら、思ってたよりも距離が近い!ヤバい!と胸を躍らせてる。

 

するといよいよお目当てが次の出番っていう頃に、どこからともなくバンドTシャツ(黒)に身を包み、手にはリストバンド、首にはタオル、足元はスニーカーっていう集団が2列目以降にぎっしり集まってくる。ああこの人たちはライブに通いなれてるんだろうな、うらやましいな、でもこのバンドを愛する気持ちは負けないぞ!などと考えてるうちにメンバーが登場。

1曲目が始まった瞬間、なんだかわからないけど視界からステージが消えてたくさんの足と地面が見えた。あとはもうほとんど記憶がない。

 

はじめてのフェスでこういう経験したって人、けっこういるんじゃないでしょうか。

何を隠そう自分も高校生のときにオールスタンディングでラモーンズを見たときこんな目にあった。

 

モッシュ」という、パンクやメタルのファンの間では一般的なライブ中のノリがあって。まあとにかく身体をぶつけあって暴れるのがお作法。ときには人の上に乗って泳いでいったり、ステージから客席にダイブしたり。

ロキノン系のフェスでは禁止されてる行為だけど、フジロックなどではふつうによくある光景。

 

モッシュの中で転んだら誰かがすぐに助けあげてくれるし、実はハタで見てるほど危険ではないんだけど、何の免疫もない状態で巻き込まれたらびっくりするよね。

メタル系のフェスだと2メートルで100キロぐらいの白人男性がニコニコしながらぶつかってくることもよくある。

youtu.be

 

最前列付近がそういう雰囲気になるってことをあらかじめ知っていれば避けられたであろう、混ぜるな危険事例。

 

アイドルがフェスに殴り込み!でよくある光景

サマソニロキノン系などの大規模フェスにどんどんアイドルが進出してきてる。ましてや、夏の魔物などのサブカル色の強いフェスならなおさら。

フジロックはかたくなに壁をつくっていて最後の砦って感じだし、アウトドアとかロハス色の強いフェスとは相変わらず相性が悪いけど)

 

ロックフェスにアイドルが出るとなると、熱心なオタクたちも当然やってくる。

 

ご存じの通り、アイドルのライブにおけるファンのふるまいはとっても特徴的で、他の出演者のファンから浮きまくることになる。

いわゆるオタ芸というやつで、ペンライトやサイリウムを手にいろんな動きをやったり、曲やMCに対して合いの手をいれたり。悪ふざけと紙一重の絶妙のラインで成り立つものが多いので、ファン層が変わってくると禁止されたり廃れたりもする。

 

ファンとの絆が強いアイドルの場合、曲ごとの決まりごとがいろいろあって、それを覚えていくのが新参者にとってはハードルでもあり楽しみでもありっていう文化。

また、ほとんどの決まりごとはオタクのほうから自然発生的に生まれるものだったりするし、ライブ前に有志が決まりごとをSNSや印刷物などで他のファンに広めたりもする。やがて自然発生的な決まりごとが半ばオフィシャルなものになり、アイドル自身がそれに乗っかったりも。

このようにアイドルとオタクは相互に影響を与え合いながらやってくものなので、フェスだろうがなんだろうがいつものように盛り上げるもんだろってなってる。

 

そういう状態でフェスにファンと一緒に乗り込んできたアイドルが出会うのが、名前と有名曲だけ知っててそのアイドルに興味がちょっとあるっていう感じのお客さんたち。この層に気に入られたら認知度が一気に高まり、それまでの活動領域からもう一つ上のステージに上がれるっていう。

 

しかしそういうお客さんたちは、アイドルとオタクが作り上げる「いつもの感じ」には引いちゃう。基本的にオタクを煽りまくってガンガンいこうぜって戦法しかないので、フェスで出会ううっすらとしか興味がないお客さんを掴むのが難しい。

単にオタ芸を封印しただけでは、ただ盛り上がってないライブになるだけだし。

 

かわいい女子が全力で歌い踊る、しかも好きなタイプの楽曲、これは応援したいかも、だけどあの独特のノリにはついてけない!自分があの集団の一員になることが全然イメージできない!ってな感じで、一見さんをファンにさせ損なってしまう。

 

オタクの狂熱ありきでここまでやってきたんだけど、それ以上ブレイクするためにはあと一歩足りない…っていう難しさ。

武道館はやれたけど東京ドームは遠い、Mステには出たけど紅白は遠い、そんなポジションにとどまるアイドルが多いのは、ここの温度差を超えていくのが難しいからではないでしょうか。

 

 山下達郎

山下達郎という人は、サウンドへのこだわりが半端なく、あまり広い会場でライブをやりたがらない。広いハコはだいたい音が悪いから。

中野サンプラザNHKホールの音響が好きらしいんだけど、そうなるとキャパが限られるのでツアーは常に超プラチナチケットと化す。

ただ熱心なファンはそんなところも含めて応援しているので、もっと広いところでやってくれとは決して言わない。

 

そういう関係性の山下達郎とファンの間で、一般的にライブ会場では当たり前とされている風習がうちではNGであるという、了解事項が最近ひとつ増えた。

 

www.huffingtonpost.jp

 

そう。ライブで自分の曲を客が大声で歌っちゃうのは嫌だそうな。

 

普段のライブは数十倍の倍率を勝ち抜いたリテラシーの高いファンばかりなので、この了解事項は隅々まで浸透しているであろうし、いまさらそんな達郎の機嫌を損ねるような輩はいないはず(チケット当選したことないので未確認)。

 

だけど、フェスだとそうはいかない。

 

2017年の氣志團万博山下達郎が出演したときのこと。

はじめて生で拝見できるチャンスなのでわたくしも勇んで駆けつけました。

会場には山下達郎のファンに加え、氣志團や他にこの日出演したユニコーン米米CLUBのファンたちがぎっしり。

つまり、30〜50代の山下達郎は好きだけど生でみるのははじめてっていう人々が大半という状態。

 

結果、みんなガンガン歌ってたよね。まあそうなるよね。また親切にKinKi Kids「硝子の少年」のセルフカバーなんてやってくたりするからなおさら。

 

前の方に集まってるコアなファンの先輩たちは、後ろの方の客が気持ちよさそうに歌うたびに、あー歌ったな歌ったな‥いつ達郎がキレて説教が始まってもおかしくないぞ‥知らないぞ‥っていう表情を浮かべていたのが印象的だった。

 

まあ、さすがの達郎自身は目くじら立てることもなく、フェスとはそういうものだと理解してくれている様子だったけど。

長渕剛またはX JAPAN

この話は直接体験したことではなく、知人から聞いた話。

 

ある人が、熱心な長渕剛ファンに誘われてライブに行ったときのこと。

ライブ中、長渕剛にあわせてお客さん全員で正拳突きをひたすら「セイ!セイ!」とやる演出があったそうな。

 

誘ってくれた熱心なファンは当然、嬉々として「セイ!セイ!」やってる。

誘われた人も、そういうもんかと思って正拳突き。

しかし長渕剛のこの手の演出はとにかくしつこいらしく、さすがに疲れてきた。

 

もういいかなと思って手をおろしたら、隣でずっと正拳突きしてた誘ってくれた人に一喝されたんだって。

「続けろ!ほら!剛が見てるだろ!」

 

ライブ会場がいつの間にかパノプティコンと化していたという。

 

さっきのアイドルのジレンマの話でいうと、長渕剛はこの問題に対して、信者に寄せるっていうかたちで答えを出してるんだと思う。

ハードめな試練を与え、ついてこれるやつだけついてこいっていう。ファンはその試練をむしろ求めるようになり、生き残ったファンとの絆はさらに強まる。

 

X JAPANもそういう感じあるよね。

生のライブを何年か前のサマソニではじめて拝見したんだけど、熱心なファンってライブの最後とかに手を「X」のかたちで何分間もずっと挙げ続ける。

別にYOSHIKIにそう強制されたわけでもないだろうに、普通の精神力だとすぐしんどくなる姿勢を、忠誠心を示すかのようにやり続けるっていうマゾい感覚。

 

2011年のサマーソニックでは、千葉マリンスタジアムのアリーナに数万本のXの手が掲げられ、スタンド席からは数万の野次馬の目が注がれていたのであった。

https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2017/02/02/jpeg/20170202s00041000169000p_view.jpg

 

普段は熱心なファンとの間でずっと行われてきたプレイが、ふわっとした衆人の目にさらされる瞬間。

それが見られるのは、圧倒的な温度差の2つの大集団がダイレクトに接触するフェスならでは。

 

 

タイムテーブル的に何も見たいものがない時間帯ってフェスにはかならずあるけど、そういうとき、できるだけ熱い人が多そうなステージを狙って、温度差を観測しにいくっていう楽しみ方はいかがでしょうか。