今年もフジロックに行ってきました。
初日(7月29日)のみだったけど、午前中のTHE HUからDOPING PANDA、ヒルカラナンデス、THE BASSONS、オリジナルラブ、SKYE、Awitch、ハイエイタス・カイヨーテ、ヘッドライナーのVAMPIRE WEEKENDから深夜のおとぼけビ~バ~まで、たっぷり満喫。
今年になってやっと各地でフェスとかライブが再開されたので、いろんなアーティストの生のパフォーマンスを目にする機会に飢えていたところでした。
そんなモードで見た中で強く印象に残ったのが、Awitch、ハイエイタス・カイヨーテ、おとぼけビ~バ~。
いずれも音源ではよく知っていたんだけど、生身のパフォーマンスの力がすごかった。
卓越した技術と場の空気を支配するオーラに、何も考えずに気持ちよく圧倒されていた感じ。
一方で、今年のフジロックでもっとも知的に刺激されたのが、モンゴルのバンド、THE HU(ザ・フー)。
度々ヘヴィメタルを話題にしてきた当ブログとしては、ここには触れざるを得ないかと思っています。
フジロックでのTHE HU
金曜の昼間のグリーンステージに登場したのは、レザーに身を包んだ黒い長髪の男たち。
メンバーによってはかなり朝青龍っぽかったりもする。
ぱっと見はアジアのヘヴィメタルバンドって感じなんだけど、手に持っているのがギターではなく、馬頭琴っていうモンゴルの伝統的な弦楽器。
しかもただの馬頭琴ではなく、メタルっぽい装飾がされている。
普通の馬頭琴との違いは、アコースティックギターと布袋寅泰モデルのエレキギターぐらいの距離。
そんな感じのメタル馬頭琴と、ドラムやベースも加えて、全体の音像としてはしっかり現代的なヘヴィさを持ったロックになっていた。
ほぼ何の前情報もなくそんなバンドを目の当たりにして、最初は正直ちょっと理解が追いつかずにポカーンとしてしまったんだけど、発せられる音がしっかりかっこよく説得力があったもんで、すぐに夢中になっていた。
THE HUのサウンドの特徴としては、重心がかなり低く重いこと。メタルといっても速度ではなく重さを追求していて、巨大なサイか何かの動物が、のっしのっしと歩いているような感じ。
そして歌声もあくまで低くうなるようなモンゴル独特の発声で、バンドサウンドとよくマッチしていた。
この低くて重いノリ、メタリカのブラック・アルバムみたいだな〜って思いながら見ていたら、なんとそのブラックアルバムの中でも特にのっしのっし感が強い「SAD BUT TRUE」をモンゴル語でカバーしたのだった!
このカバーを見て確信したんだけど、この人たちモンゴル文化とメタルの融合に関して相当に意識的にやってる。
ちなみにこれが1991年にリリースされた歴史的名盤、メタリカの通称『ブラックアルバム』。THE HUがカバーした「SAD BUT TRUE」は2曲目です。
調べてみた
帰ってからTHE HUのことをいろいろ調べてみたんだけど、まずはリリースされているアルバムでは、一般的にメタルっぽい音の要素はあまりないってことに気づいた。
今どきのバンドにしては音圧とか歪みがかなり控えめだし。
こんなサウンドで、それでもジャンルとしてはメタルだなってみんなが感じるのには、理由がある。
それはやはり、重心の低さと重々しさ。
モンゴルの伝統音楽がもともと持っていた要素が、メタリカのブラックアルバムに備わっているメタルの要素とめちゃくちゃ相性がよかった。
まずモンゴルの伝統的な歌唱法や、その歌声のキーに揃えた弦楽器の音域。
そしてどっしりしたリズムも、伝統的な音楽とロックの混合をいろいろ試した結果として生まれたものだろう。
調べてみると、THE HUは、プロデューサーの構想による「匈奴ロック」のコンセプトに基づいて結成されたらしい。
このプロデューサー、80年代には自らアーティストとして活動もしていた人で、その後、モンゴルの伝統音楽とロックの融合について何年も考え抜いた末に、伝統楽器のプレイヤーたちに声をかけてTHE HUを結成したという。
やはりライブを見て感じたとおり、相当に意識的にやってる人たちだった。
いろんなジャンルや伝統楽器をヘヴィメタルに取り入れてみるっていうことは、これまでにも世界中のいろんなところで試されてきた。
ありとあらゆる楽器がメタルの中に取り入れられてきたし、世界中のいろんなローカルの音楽(たとえばブラジルのサンバや、日本の民謡なども)もメタル化されてきた。
その中でうまくいったものとそうでないものは当然あるんだけど、うまくいったケースは、もともとのその楽器やジャンルの特性がメタルと親和性が高かったものが多いと思う。
逆に、親和性が高くないもの同士をむりやりくっつけても、どうしても違和感が残ってしまう。
THE HUの場合、そこがものすごくうまくいったんだと思う。
うまくいきすぎて、もはやヘヴィメタルという音楽がモンゴル発祥なんじゃないかっていう気すらしてきた。
今年の #fujirock は #thehu から。
— ハシノ💿LL教室 (@guatarro) 2022年7月29日
メタリカのブラックアルバムみたいでかっこいいなと思ってたら「SAD BUT TRUE」をカバー!
メタルに民族楽器を混ぜたりするローカライズの成功例だけど、ここまでしっくりくるともはやヘヴィメタルってモンゴル発祥なのではという気すらしてくる。低さ重さ。 pic.twitter.com/9ruEgtc8I5
ヘヴィメタル=モンゴル発祥説
普通に考えるとありえない「ヘヴィメタル=モンゴル発祥説」について、ほんの少しでも可能性があるんじゃないかと思えるパターンを妄想してみた。
賢そうな人が書いてたらうっかり信じる人が出てきそうなラインを狙いました。
①タタールのくびき
モンゴルとヨーロッパの直接の接点といえば、13世紀にチンギス・ハーンやその子孫が現在のロシアやウクライナ一帯を征服した、いわゆる「タタールのくびき」が最初。
このとき、征服民族であるモンゴル人の文化がヨーロッパに入ってきたはずで、その要素が正当なクラシック音楽とは別に地下水脈のように20世紀まで受け継がれ、ヘヴィメタルというカウンターでサブカルチャーな音楽の誕生に影響を与えたって説。
②ヒッピーの東洋かぶれ
ヘヴィメタルが生まれたのは60年代末。当時の欧米の若者は、西洋文明への反抗心もあって、ヨガや禅などの東洋の神秘的なカルチャーに魅せられていた。
ヒッピーの中でも、ヨガとか禅なんてベタだよな!っていう逆張り精神の持ち主が、チベット仏教に関心を持ち、さらに深掘った結果モンゴル文化に出会ったりして。
ブラック・サバスのトニー・アイオミは、ヘヴィメタルという音楽の原型をほぼ1人で作り上げたといっても過言ではないような人なんだけど、たとえばこの人の友達がヒッピーをこじらせてアジアを放浪してたりして、モンゴルで買った伝統音楽のカセットをトニー・アイオミに渡してたりして。
ロックンロールをさらにエクストリームに発展させたい!って野心を持ったトニー・アイオミ青年にとって、天然の歪み成分が多く含まれたモンゴル音楽は魅力的だったに違いない。
③古代中国
かつて秦の始皇帝を苦しめたモンゴル系騎馬民族のメ・タール将軍は、重金属の楽器を演奏する楽団を従軍させていたという。
当初は部隊の士気を高める目的で演奏されていたが、やがて楽団が奏でる音楽にあわせて、兵たちが高速で首を振る兵怒蛮銀具(へっどばんぎんぐ)という戦法が編み出され、秦の軍勢を大いに苦しめた。
この音楽が第2次世界大戦の際に英国に伝わり、ヘヴィメタルのルーツになったことはあまりにも有名である。
民明書房刊『音楽はじめて物語』より