森の掟

J-POPやメタルやフェスや音楽番組なんかの批評(という名の無益な墓掘り行為)

孤高そうでそんなに孤高じゃないブランキー・ジェット・シティの音楽性を分析してみた

2024年7月、24年前に行われた解散ライブの映像を突然Youtubeで配信し、同時にサブスク解禁や過去作のアナログ盤リリースを発表したBLANKEY JET CITYブランキー・ジェット・シティ)。

 

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ブランキーは、1990年のデビューから2000年の解散までの10年間に10〜20代を過ごした世代にはかなり大きなインパクトを与えているんだけど、リアルタイムのインパクトと比べて、解散後はあまり言及される機会がなかったと思う。

 

自分自身も、多感な年頃に「悪いひとたち」〜『C.B.Jim』の衝撃をリアルタイムで味わって当時はかなり聴き込んでいたにもかかわらず、正直この四半世紀はブランキーのことを思い出すこともほとんどなかった。

 

あまりにも独特すぎるアーティストって、独特すぎてマネしづらいがゆえにフォロワーが生まれにくく、フォロワーによる再評価がされないから忘れられがち、っていうパターンなのかと推察してますが。

 

とにかくそんな状態だったので、2000年以降に10代になった世代にとってはブランキーってよくわからない存在かもしれない。

また、当時ブランキーの存在は認識していたけどいまいちよくわからなかったという人も割と多いと思う。

やはり孤高のバンドってイメージが強いし、また実際そこそこ孤高だったとも思うし。

 

ただ、ブランキー・ジェット・シティの音楽性って、実は分析してみると他の日本のロックバンドと意外な共通項が見つかったりする。

 

同じアーティストに影響を受けた異母兄弟のような存在が実は多いので、ブランキーを初めて聴く方々も、20年ぶりに聴く方々も、このブログを手がかりに、サブスク解禁に備えて各自予習をおすすめします。

 

ブランキーとジッタリン・ジン

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「プレゼント」や「夏祭り」といった名曲が世代を超えて愛されているジッタリン・ジンは、ブランキーと同じく90年代バンドブームの代表的なバンド。

 

ジッタリン・ジンといえば、女の子のほろ苦く甘酸っぱい世界観のバンドと思われており、無骨そのものといったブランキーとは対極にあるようでいて、実はロカビリーを音楽性の芯に持っているという共通項がある。

 

どちらのバンドもグレッチのギターによるロッキンなフレーズが特徴的で、50年代のエディ・コクランや80年代のネオロカビリーを代表するストレイ・キャッツあたりの影響。


ジッタリン・ジンの曲のなかには、そのままブランキーがカバーしても違和感がないものもちらほら。

 

一見似てないけど、ブランキーとジッタリン・ジンは異母兄弟と言っていいでしょう。

 

ブランキーゆらゆら帝国

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80年代にあったロカビリーのリバイバルをさらにエグい方向に発展させたのがサイコビリー

中村達也加入前、ブランキーの前身バンドはサイコビリーだったという。

 

そのサイコビリーの代表的なバンドであるクランプスの、怪奇で狂気でダークな雰囲気を日本で取り入れたバンドのひとつが、ゆらゆら帝国

 

もちろんゆら帝にはサイケやGSやガレージなどたくさんの要素が入っているんだけど、この2曲を聴き比べれば、クランプスの影響もあることは明らかでしょう。

 

 

サイコビリーは具体的にどんな歌詞なのかほとんど知らないけど、ブランキーゆら帝に共通するのが、ちょっとゾッとするような少年の目線の歌が多いところと、死のイメージ。

 

すなわちブランキーゆら帝は、サイコな父をもつ異母兄弟。

 

ブランキーBUCK-TICK

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ブランキーにおけるロカビリー〜サイコビリーの要素は、グレッチのギターとリーゼントといったルックスからもわかりやすいんだけど、実はそれは構成要素の半分にすぎないと思ってて。

ブランキーをロカビリー〜サイコビリーの範疇にとどまらない独特の存在たらしめているのが、残りの半分の「ゴス」な部分。

 

耽美的でダークで文学的なゴシック・ロックは、80年代初頭のイギリスで一世を風靡し、数多くのバンドをシーンに生み出した。

浅井健一が影響を受けたと語っていたバウハウスも、そんなゴシック・ロックを代表するバンドのひとつ。


他にも、初期のザ・キュアーの繊細さとか、ザ・カルトの硬質なサウンドなんかは、かなりブランキーっぽいので、ブランキーは実質ゴスのバンドといっても差し支えない。

 

「死」のイメージの取り扱いについても、サイコビリーとゴスではぜんぜん違ってて、言ってみればドクロの指輪と遺影ぐらい違うんだけど、ブランキーは後者寄り。

 

そして、日本におけるゴスの帝王といえばもちろんBUCK-TICKなので、ブランキーBUCK-TICKは異母兄弟。

 

ブランキーLUNA SEA

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ブランキーのデビューアルバムの『Red Guitar And The Truth』というタイトルは、U2の「All Along The Watchtower」(原曲はボブ・ディラン)の歌詞から引用したという。

 

初期U2のヒリヒリした質感やシリアスな世界観は明らかにブランキーに受け継がれていると思うし、たとえばこのあたりの曲なんてそのままブランキーのアルバムに入っていてもおかしくない。

 

で、そのU2サウンド面での特徴であり後世のギタリストにめちゃくちゃ影響を与えたのが、アルペジオの音がたくさん追いかけてくるような付点8分ディレイ奏法。

弾いた音に対して遅れて音が鳴るエフェクトをディレイっていうんだけど、そのディレイの間隔と音量をうまく調整するとU2のあの音になるんですよ。

 

この奏法、日本ではLUNA SEAがいろんな曲で取り入れてる。

つまりブランキーLUNA SEAは異母兄弟。

 

 

ブランキーNUMBER GIRL

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ここまで見てきた影響元は、だいたい80年代までのロックが中心で、このあたりがブランキーの音楽性の骨格になっているというのは確かにそうなんだけど、実は同時代のトレンドにもちゃんと反応していた。

 

同時代、すなわち90年代の10年間はそれはもう目まぐるしかったので、ブランキーも最終的にはレディオヘッドに傾倒したり打ち込みを取り入れたりもしたわけで。

 

そうなっていく前の90年代前半といえば、世界的にニルヴァーナのブレイクにともなうオルタナティブ革命の嵐が吹き荒れた時代。

 

オルタナティブ・ロックのサウンド面の特徴は、静と動の極端すぎるコントラストだとか、ファズ系の歪みだとか、ノイズや破綻を曲の要素に取り込んでいくところとか。

 

このあたりのオルタナ感を、ブランキーは元の音楽性と調和させつつ新鮮さをもたらす要素としてうまく取り入れていたと思う。

 

これとかブランキーがカバーしたらめっちゃ似合いそうでしょ。

 

そんなオルタナを日本においてもっとも体現していたのが、福岡市博多区からやってきたNUMBER GIRL

 

ピクシーズとハスカー・ドゥという代表的なオルタナのバンド名にちなんだ「Pixie Du」っていう曲もあるぐらい。

 

すなわち、ブランキーNUMBER GIRLも異母兄弟。

 

 

意外と孤高ではない

ここまでみてきたように、ブランキー・ジェット・シティには音楽的な異母兄弟がたくさんいた。

 

ブランキーってアーティスト/プレイヤーとして個性が強い3人の集まりだったことは確かだけど、やはりミュージシャンというのは誰にでもルーツがあるし、また同時代の影響を受けながら進化していくもの。

 

これはわれわれLL教室が常々イベントや講義などの場で伝えてきたことでもあるんですが、誰の影響も受けていないからエラいとか、パクリだからダメとか、そういう話ではないんですよね。