森の掟

J-POPやメタルやフェスや音楽番組なんかの批評(という名の無益な墓掘り行為)

オジー・オズボーンとブラック・サバスの引退記念『バック・トゥ・ザ・ビギニング』はヘヴィメタル55年史の句読点(だけど終わりじゃない)

2025年7月5日にイギリスはバーミンガムで開催された『バック・トゥ・ザ・ビギニング』。

このイベントは、55年前にこの地で結成されたブラック・サバスの引退を記念し、彼らの影響下にあるアーティストが数多く集結して盛大に行われたもの。

 

このイベントが、そしてブラック・サバスという存在が、どれだけ音楽シーンにとって重要なものだったか、今回はそのことについて書きます。

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ヘヴィメタルの夜明け

ヘヴィメタルという音楽ジャンルは、重さ速さ暗さエグさエモさを極端に突き詰める独特の美学によって聴く人を選びつつも、80年代に英米を中心に世界各国(日本ではラウドネス聖飢魔IIやXなど)で大きなムーブメントとなった。

90年代にはブームは下火になったものの、無数のサブジャンルに枝分かれしつつ各国にしっかり根付いて現代に至る。

 

ヒップホップにおけるアフリカ・バンバータボサノヴァにおけるアントニオ・カルロス・ジョビン、アフロビートにおけるフェラ・クティのように、いろんな音楽ジャンルには始祖やそれに近い存在がいるが、ヘヴィメタルにおけるそれは、ブラック・サバスというイギリス出身のバンドなんですよ。

 

1970年のデビューから立て続けにリリースした数枚のアルバムで、彼らは後にヘヴィメタルと呼ばれる音楽ジャンルの原型を定義づけた。

 

当時はウッドストック・フェスティバルが行われたラブ&ピースの時代であり、また黒人音楽ではマーヴィン・ゲイスティーヴィー・ワンダーがメッセージ色を強めていたり、日本ではフォークソングが若者に熱狂的に受けていたような、そんな頃。

その同時期に、ブラック・サバスは、ロックに重さや暗さやおどろおどろしさを持ち込んで、誰も聴いたことがないかっこいいものに仕上げた。

 

 

その後ブラック・サバスは紆余曲折あってメンバーが入れ替わりまくり、ヴォーカリストオジー・オズボーンはソロアーティストとして数々の名曲をリリース。メタル界の帝王と呼ばれるようになる。

 

ちなみに、オジー・オズボーン脱退後の80年代ブラック・サバスは、こういうエモいハードロック路線にいっており、初期とはかなり別物。

 

 

そんなエモ路線時代を経て、21世紀にオジー含むオリジナルメンバーで再結成を果たし、現在に至るという感じ。

 

『バック・トゥ・ザ・ビギニング』とは

1970年のデビューから55年を経た2025年、ブラック・サバスオジー・オズボーンは引退を宣言。最後のライブとして企画されたのが、『バック・トゥ・ザ・ビギニング』というわけ。

 

いわばヘヴィメタル界にとっては大きな節目、一つの時代の終わりを意味するものであり、ヘヴィメタル55年史の集大成のような超豪華ラインナップが招集された。

80年代のスラッシュメタル、90年代のグルーヴメタル、00年代にはさらにテクニカルかつ凶暴さが発展し…と、まるでメタルの歴史をなぞるように、メタリカ、スレイヤー、アンスラックスパンテラマストドンゴジラ、ラム・オブ・ゴッドといったバンドが次々に登場し、またサバスを敬愛するミュージシャンたちによるスペシャルなコラボも繰り広げられた。

 

と、ここまでそれっぽい説明をしてきましたが、メタルファンならお気づきのとおり、このラインナップではメタル55年史の半分ぐらいしかカバーできていない。

 

最初の方で、ヘヴィメタルのことを、重さ速さ暗さエグさエモさを極端に突き詰める音楽と表現しましたが、初期ブラック・サバスとその影響下にあるバンドたちはおもに、重さ暗さエグさに重きをおいた一派。

 

一方で、速さやエモさを追求した一派もいるんだが、そっち方面のバンドは『バック・トゥ・ザ・ビギニング』からは見事にお声がかかっていないんですよね。

速さエモさ一派はおもにヨーロッパ(ドイツとか北欧とか)に多いので、その結果、『バック・トゥ・ザ・ビギニング』の出演者は大半がアメリカ人という結果に。

 

ロックの歴史は大西洋を挟んで相互にインスパイアし合って発展してきたんだけど、メタルにおいてもそれは当てはまるらしい。

 

オルタナに流れるサバスの血筋

このブログでも常々書いてきたけど、1991年のニルヴァーナのブレイクをきっかけに、世界中でヘヴィメタル全体がダサいものとなり、人気が凋落。代わりにオルタナティヴ・ロックが勃興し、現在に至るまでオルタナの流れをくんだロックが主流派になっている。

90年代初頭のオルタナ勢はインタビューで、旧世代のメタルバンドをクソミソにこき下ろしていたもんだった。

 

つまりオルタナにとってメタルは、倒すべき旧体制みたいな存在だったわけで、またメタルにとってオルタナは、自分たちを主役の座から引きずり下ろした奴らってこと。

 

それが今回、あのレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのトム・モレロがですよ、メタルの速弾きギターソロを葬り去った新世代オルタナギターヒーローのあのトム・モレロが、トリビュートバンドのリーダーをやるっていうから驚いた。

 

90年代の自分に、レイジのトム・モレロとジューダス・プリーストのKKダウニングとホワイトスネイクのベースを従えたスマパンのビリーが、ジューダス・プリーストの「Breaking the law」を歌う未来があるよって言っても絶対に信じてくれないだろう。

 

日本でたとえるなら、田渕ひさ子が中心になってYOSHIKI高崎晃峯田和伸がバンドを組んだみたいな話。どれだけ信じられないか伝わったでしょうか。

 

 

ただ、当時主流派だったポップなメタルを駆逐して革命を起こしたオルタナ勢だったけど、カート・コバーンをはじめ、初期ブラック・サバスのことはみんな好きだったわけで。

 

80年代後半あたりのヘヴィメタルの主流派のサウンドにはブラック・サバスの影響はほとんど見受けられず、逆にブラック・フラッグやメルヴィンズあたりの、グランジに影響を与えたオルタナバンドのほうがよっぽどサバスを感じられる。

 

 

 

 

ニルヴァーナのプロデューサー、ブッチ・ヴィグがカート・コバーンの完璧主義には時々うんざりしたと語る (2011/08/25) 洋楽ニュース|音楽情報サイトrockinon.com(ロッキング・オン ドットコム)

↑この記事によると、カートは『ネヴァーマインド』の音をブラック・サバスみたいにしたいと言ったらしい。

 

サバス愛を感じるカバー

『バック・トゥ・ザ・ビギニング』に出演したバンドはみんな、自分たちの曲に加えてブラック・サバスのカバーを演奏した。

 

マストドンは「スーパーノート」のうねるベースや後半のパーカッション乱打がかっこよかったし、ラム・オブ・ゴッドは「チルドレン・オブ・ザ・グレイヴ」をツーバスとデス声でモダンに解釈していたし、パンテラの「エレクトリック・フューネラル」はザック・ワイルドのギターが最高にハマっていた。

 

初期サバス一門がずらりと並ぶ中でちょっと浮いてる感じがあったガンズ・アンド・ローゼズだが、ピアノ弾き語りの「イッツ・オーライ」と軽快な「ネヴァー・セイ・ダイ」というマニアックかつバンドの色にすごくよくマッチした名カバーを披露。そういえば昔からカバーのセンスがいいバンドだった。

 

みんなそれぞれの色があってよかったんだけど、80年代サバスをカバーしたバンドはさすがにいなかった。まあオジーを中心としたイベントなのでそこはみんな遠慮したっていう面もあるだろうけど、『バック・トゥ・ザ・ビギニング』に招集された重さ暗さエグさ一派はみんな初期サバスが好きなので、自然と初期の曲ばかりになったんでしょう。

 

大団円があの曲っていう

1980年代から2020年代までの各世代を代表するバンドたちによる初期サバス愛にあふれたライブに続き、いよいよオジー・オズボーンのソロ名義のライブへ。

名盤『ブリザード・オブ・オズ』収録の大ネタ連発からの、バラード「ママ、アイム・カミング・ホーム」で場内のエモが最高潮に達する。

 

 

さんざんヘヴィメタルの重さ暗さエグさを背負った存在だと書いてきたところで申し訳ないが、結局この、無骨で温かいバラードが、8時間を超える長丁場だった『バック・トゥ・ザ・ビギニング』全体のピークだったように感じた。

この曲で終わっていても文句なかったし、むしろそれがもっとも美しかったかもしれない。

しかし、その後にトリとして初期メンバーが集結したブラック・サバスが控えている。

 

そのブラック・サバスは、全員70代後半とは思えない達者な演奏で、正直おみそれしましたって感じ。

演奏した4曲は、1970年のデビューアルバムとそれに続くセカンドから。

まさに『バック・トゥ・ザ・ビギニング』。

 

そして彼らが最後に演奏したのは、「パラノイド」。

たしかに、メタルファンならみんな知ってる有名曲だし、いまも色褪せないかっこよさがある。

 

 

ただ、歌ってる内容はというとですね…。

 

People think I’m insane because I am frowning All the time

みんな俺が頭おかしいと思ってるんだろ いつもしかめっつらだから

 

Think I’ll lose my mind if I don’t find something To pacify

何か気晴らしでもないと本当におかしくなりそうだ

 

I tell you to enjoy life, I wish I could But it’s too late

お前は人生を楽しんでくれよ 俺もそうしたかったけど手遅れだ

 

てな感じでまことに救いがない。

 

正直さっきのオジーのバラードのほうが芸歴55年を締めくくる感動のフィナーレにはふさわしいかもしれないけど、こんな陰々滅々とした歌詞の曲が代表曲っていうところが実に初期サバスらしくてこれはこれで最高でした。

 

それでこそ、ロック音楽の歴史に重さ暗さエグさを持ち込んでヘヴィメタルというジャンルの始祖となったブラック・サバス。さすがすぎる。

 

 

ヘヴィメタル55年の歴史における句読点になった『バック・トゥ・ザ・ビギニング』。

始祖は引退してしまったけど、この日登場したベテランや中堅はこれからも元気にやっていくだろうし、オーディエンスも幅広い世代が集まっていたので、まだまだメタルは終わらないと思いました。