森の掟

J-POPやメタルやフェスや音楽番組なんかの批評(という名の無益な墓掘り行為)

音楽業界におけるデータドリブンは30年前にオウム君が消えたときから始まった

世の中、どんどんデータドリブンになっていってる。

 

データドリブンとは

データドリブン(Data-Driven)とは、ビジネスにおいてデータを根拠としたアプローチ全般です。「ドリブン」は、データに突き動かされるという意味で、データドリブンは「データ駆動型のアプローチ」を意味します。

(中略)

データに突き動かされるように、あるいはデータ起点で意思決定を行うことが、データドリブンの本来の意味です。

データドリブンは、ビッグデータやデータマイニング技術の成熟によりビジネスに普及しつつある考え方です。 - Salesforce

 

自分自身も会社員として、データに基づいて判断したり上申したりするのは基本スタイルとして身に染みついていて、勘やノリでなんとなく物事やお金が動こうとしているのを見るとヒヤヒヤしてしまう。

 

 

たとえば、広告の世界では、テレビや雑誌がインターネットに押されてるって話はずっと言われてるけど、これって単純にネットのほうが多くの人に見られてるからっていうだけじゃなくて。

 

テレビや雑誌の時代でも、その広告がどれだけ見られたかっていうデータは、視聴率とか発行部数で把握できていたけど、広告を見た人のなかでどれぐらいが広告の影響で購入に至ったかまではわからなかった。

そのCMを放送している期間の売上が他の期間よりもどれだけ多かったか、みたいな感じでなんとなく把握するしかない。

 

一方、インターネット広告の場合、広告経由で何人がサイトに入ってきたかや何人が買ったかはもちろん、どのサイトに出している広告が一番見られたかとか、複数のコピーを出し分けてどれが一番刺さったかの検証も簡単にできる。

 

つまり、広告を大々的にやったにもかかわらず、いまいち売上が伸びなかったとしても、テレビCMの場合は原因を調べるにも限界があるんだけど、インターネット広告の場合、かなり詳細に分析ができる。

 

たとえば自分がスポンサー企業のマーケティング担当だったとして、テレビとネットのどちらに広告を打つかっていったら、やっぱりネットってことになるんじゃないでしょうか。

 

 

他にも、それまでは職人の勘、みたいな感じで言語化もされず属人化したままだったノウハウが、データドリブンにより誰でも活用できるスキルになっていってる分野は多い。

タクシー運転手はどの時間帯にどこのエリアにいると稼ぎやすいかとか、農家はどの時期にどれぐらい肥料とか農薬を使うのが最適かとか。

それにより、世の中からいろんな無駄が減ったり便利さが向上したりしていて、基本的にはいい方向に向かってるはずだと思う。

 

音楽業界のデータドリブン

音楽業界でも、インターネットを通じたSpotifyYoutubeでの視聴が中心になってきたことや、SNSの発達にともない、データドリブン化がどんどん進んでいる。

 

たとえばソニーミュージックでは、自社で持っているデータと調査会社などから入手したデータを組み合わせて、特定のアーティストのファン層の趣味嗜好や消費傾向なんかが、かなり細かく分析できるようになっているという。

たとえばアニメの主題歌を誰に依頼するかとか、どんなイベントに出演するかかとか、そういった判断の材料として活用されているに違いない。

 

 

SpotifyYoutubeで、視聴履歴に基づいたおすすめが出てくるのも、世界中のユーザーの視聴データが活用できているから。

 

今のところ、腕の良いDJのように、時代やジャンルを超えて共通する感覚をキーに繋いでいくといった選曲はできてなくて、単に同じジャンル内でおすすめされている状態だけど、このあたりもあと何年かしたら実現してくるかもしれない。

 

ここ数年の日進月歩ぶりはほんとうにすごい。

 

音楽業界では30年以上前にはじまっていた

しかし実は、音楽業界のデータドリブン化は、30年以上前に始まっていた。

(もちろん当時はデータドリブンなんて言葉はなかったけど)

 

1992年の通信カラオケの登場によって。

カラオケ歴史年表 - 一般社団法人 全国カラオケ事業者協会

 

 

通信カラオケが普及するまで、カラオケがあるお店には、このオウム君がいた。

Image

 

当時は店ごとのカラオケ装置に何十枚かのレーザーディスクがセットされており、客は分厚い歌本で曲名を調べてリモコンから番号を入力すると、オートチェンジャーで該当のレーザーディスクが再生されるという仕組みだった。

 

レーザーディスク1枚に収録できる曲数がめちゃくちゃ少なく、また当時はカラオケというと大人のカルチャーだったため、10代が歌える歌がほとんどなかったんだよね。

 

アラフィフ世代がことあるごとに「リンダリンダ」を歌って暴れてしまうのは、当時のカラオケで歌えた数少ないロックバンドの曲だったからっていう、共通項としての強さがすごいからっていうのは絶対あるでしょ。

 

そういう自分もレーザーディスクのカラオケをギリギリ知ってる世代なので、通信カラオケが登場した衝撃もはっきり覚えてる。

 

ブルーハーツだったら「リンダリンダ」だけじゃなく「僕の右手」も「終わらない歌」も「星をください」も歌えるようになった、突然世界がぐわっと広がったような、あの感覚。

 

それと同時に、カラオケという娯楽が、おじさんが夜に酒を飲みながら歌うものから、高校生が放課後にコーラを飲みながら歌うものになった。

 

 

通信カラオケの登場によって、一気に数百倍みたいな規模で曲数が増えたことがまずすごいんだが、もうひとつ大事なのが、いつどの曲が何回歌われたかのデータが集計できるようになったこと。

 

それまでは、スナックのママが自分の店でよく歌われる曲をなんとなく把握してるっていうレベルだったのが、全国津々浦々で詳細にデータがとれるようになったわけで。

 

それにより、作詞作曲した作家やアーティストへの印税支払いがフェアになったはず。

(逆に、レーザーディスクの時代ってどうやってたんだろう?)

 

また、アーティスト側にとっては、自分たちの曲の中でカラオケで一番人気なのがどの曲かわかるようになっただろうし、都心と郊外と地方のどこでもっとも支持されてるかとか、他のどのアーティストと一緒によく歌われてるのかも見ることができるかもしれない。

 

アーティストとしての活動方針をデータに基づいて決めることができる環境が、通信カラオケの登場によってはじめて整ったと言えるだろう。

まさにDXによるデータの可視化、音楽業界における最古のデータドリブンの事例。

 

 

つまり、SNSやショート動画やサブスクを駆使して音楽をより遠くまで届けようとする現代の音楽業界のマーケティングは、実は30年前に街からオウム君の看板が消えて通信カラオケが普及したあの頃に始まっていたと言っても過言ではない。