森の掟

J-POPやメタルやフェスや音楽番組なんかの批評(という名の無益な墓掘り行為)

『LL教室のリズム歌謡大百科』をひっさげて、文学フリマ東京39に出店します!

このたび、『LL教室のリズム歌謡大百科』という結構なページ数の本を作りまして。

いわゆる出版社からのメジャーデビューではなく、自費出版ではありますが、2024年12月1日に東京ビッグサイト 西3・4ホールで開催される「文学フリマ東京39」でリリースすることになりました!

 

今のところここでしか手に入らないものですので、興味がある方はぜひJ-19ブースにお立ち寄りください。

 

というか、文学フリマハッシュタグなどでここにたどり着いた方には、「LL教室」ってものも「リズム歌謡」なるものもいちいち意味不明だと思います。

まったくそのとおりかと思いますので、よろしければ下記をご覧ください。

 

 

Q. LL教室って何?

A. LL教室とは、かつてラジオ日本で放送されていた「マキタスポーツラジオはたらくおじさん」という番組で出会った3人によって結成された音楽批評ユニット。

 

メンバーは、risetteというバンドで『pop'n music』への楽曲提供や、マキタスポーツの音楽ネタなどの活動を支えている放送作家の森野誠一。

コミックソングがJ-POPを作った 軽薄の音楽史』『学校するからだ』といった著作や「ミュージック・マガジン」誌などでの音楽批評など幅広く活動する矢野利裕。

洋楽の日本語カバーやリズム歌謡を中心にレコードをディグしたり『マツコの知らない世界』に出演し酸辣湯麺について熱く語るなど独自の活動を繰り広げる会社員のハシノイチロウ。

 

過去には、ダースレイダーグレート義太夫星野概念ヒダカトオル杉本清隆清浦夏実、長谷川裕 (順不同・敬称略)といった方々をゲストとして招き、90年代J-POPやリズム歌謡に関するトークイベントを行ってきた。

近年では神保町の美学校にて音楽批評の通年の講座やオープン講座も担当。

 

Q. 歌謡って?そんな大昔の音楽について考える意味ある?

A. 『LL教室のリズム歌謡大百科』に収録した巻頭対談から一部抜粋したのでぜひお読みいただきたい。

リズム歌謡とは何なのかという一般的な説明から、今この時代にリズム歌謡を考える意義についても掴んでいただけるのではないかと。

 

(以下引用)

ハシノ:リズム歌謡とは何かというと、大体1950年代半ばから60年代後半にかけて、日本のポピュラー音楽シーンの中で起こった一連の動きです。一番最初はマンボですね。アメリカでマンボが大ブームになり、ペレス・ブラードという人が「マンボNo.5」を大ヒットさせた影響で、その流れが日本にも来て、日本中のダンスホールや、米軍が集まるお店などでマンボが爆発的に流行りました。その後「国産のマンボを出そう」という流れになり、美空ひばりトニー谷といった人たちが競ってマンボのレコードを出しました。それをきっかけとして、マンボが下火になると、次はスクスクやパチャンガなど、さまざまな新しいリズムを次々と仕掛けていくという商売の形が定着したんですよね。マンボ以降も、毎年のように、あるいは1年に何度も「上半期はこれ、下半期はこれ」みたいな勢いで新しいリズムが登場する形が、約10年ぐらい続きました。

レコード会社が「これが今年のニューリズムです!」と打ち出し、当時の人気歌手に歌わせるというスタイルが一般的で、たとえば、美空ひばりの「ひばりのドドンパ」、小林旭の「アキラでツイスト」など、歌手名とリズム名がセットになった曲名が典型的です。

 

矢野:敗戦後の日本という生々しい状況のなか音楽を輸入していたんですよね。日本のポップスをなんとか作ろうとするなか西洋や海外の音楽的要素を借りてくるわけですが、そのゆえに「本格感」がなくて軽薄な感じがあるから、ロックファンなどからは「流行歌でしょ」「一発屋でしょ」などと見られることも多かった。LL教室はそういう音楽ファンから軽視されるようなところに注目して面白さを見出す性格というか好みがあるので、そういう観点からもリズム歌謡に関心がありました。僕自身は昔からリズム歌謡を聴いていましたが、最近ではリズム歌謡の話は普通にされるようになりましたね。ポピュラー音楽研究者である輪島裕介さんの著者『踊る昭和歌謡』(NHK新書)のインパクトも大きかった。その意味では、この10年ほどでまた違った状況になってきているとは思いますが、とにかくリズム歌謡というのは日本の音楽を考えるうえで実は重要だと思っています。

 

ハシノ:海外で流行っている新しい音楽を輸入して国産のものにするっていう形の「狭い意味でのリズム歌謡」というムーブメントは、60年代末からは消滅していきます。その後は、輸入する必要がなくなるぐらい日本のポピュラー音楽の層が厚くなってきて、国産音楽で十分まかなえるようになったということと、ビートルズボブ・ディラン以降の「自作自演こそ尊い」という流れが出てきたことで、こうした企画モノみたいなものは居場所がなくなります。ただ、この構造自体は日本の音楽にずっと根づいているもので、たとえば最近リバイバルで注目されている風見慎吾の「涙のtake a chanse」がブレイクダンスを広めたように、リズム歌謡的な構造は、いわゆる典型的リズム歌謡ではない音楽の中にもあると思います。

 

矢野:いわゆる「リズム歌謡」と呼ばれるものは50年代後半から60年代前半の企画モノを指すけど、別にそれ以降も外国の音楽の形式とかジャンルを参考にして自分の音楽を作るっていう構造自体は続いているわけですよね。だから極端な話、日本の音楽はすべてリズム歌謡的な側面がある。僕がこれに気づいたのは、『マキタスポーツラジオはたらくおじさん』を聴きながら小室哲哉について考えたときです。小室哲哉は、TRFを組んだときに「Tetsuya-Komuro Rave Factory」の略ですが、ユニット名に「レイヴ」とわざわざ付けている。あるいは、H Jungle with tのときに「ジャングルとはこうなんです」みたいなことをいちいち説明している。流行りのリズムを外国から持ってきて「これからの時代はこのリズムに注目!」て言っている小室の感じを思い出していたら「小室もリズム歌謡もやってることは一緒じゃん!」って思ったんです。そもそも小室は、J-POPでいち早くトレンドを取り入れるみたいなところがあります。そう考えるとヒップホップにしてもオルタナティヴロックにしても、外国のトレンドをいち早く取り入れて先取りするようにやっていく音楽は全部リズム歌謡的だな、と思うようになりました。いまの2024年の最新曲に至るまで日本の音楽は全部リズム歌謡に聞こえる(笑)。

 

ハシノ:そうですね。いかにも企画モノを歌わされている人とかだけじゃなくて、「自分の内面からにじみ出るものを曲にしてます」みないなアーティスティックなイメージの人も、結局は何かしらの参照元があるはずで、その上に自分の音楽を載せている構造はまあ変わらないんですよね。日本の場合、その参照元がほとんど輸入品なので、広い意味ではすべてがリズム歌謡的な構造で語れちゃうなっていうのは、やっぱりあるんですよね。

 

森野:一般的にですけど、音楽を作り始める初期衝動とか憧れって最初はあるんですよ。自分はこう見られたい、みたいな自我の強い表現とかが。でもそういうのを模索する一方で、職業音楽家となってくると、ニーズに応えるっていうことも出てきますよね。この話は細かくなってしまうので端折りますが、職業としての”規格”みたいなものと、表現としての”自我”みたいなものの葛藤をどう折り合いつけて表現していくか?っていうところだと思うんです。かつてのCDとかレコードだと、A面は売れ線の曲にして、B面はちょっと実験的なことをやってみるとかあったけど、今はサブスクでそういう時代でもなくなってるからね。手品の種明かし以降の手品みたいな、分かったうえでやらなきゃいけないことが多いから、音楽家に求められるレベルはとても上がってるように思います。だから若い人でもリズム歌謡的な解釈にしても、もっと要求が高いし、それに応えられてる人たちが今音楽をやってるなって感じますね。

 

矢野:これだけいろんな音楽があふれている時代で音楽を作ると、どうしたって何かに似ちゃうっていうのはありますよね。渋谷系の時期は「もうどうしたって似ちゃうんだから、むしろあからさまに引用する」という戦略もあったでしょう。なにを引用するかというところにアーティスト性を出していた。でも、それももはや前提条件になってるから、もう開きなおるようなかたちで演技的に振る舞う。Vaundyなんかその演技性がアーティスト性になっている感じがします。でも、これもリズム歌謡ですよね。リズム歌謡の歴史をいま知っておくのは、そういう意味でも助けになると思います。

(以上引用)

 

Q. 『リズム歌謡大百科』ってどんな内容?

A. 主な内容としては…

・『ポップンミュージック』シリーズの音楽を多く手掛けた杉本清隆さんをゲストとして招いたトークイベントの文字起こし

・昭和〜平成にかけてリリースされたリズム歌謡88曲のディスクレビューとジャケット写真

・リズム歌謡年表

・LL教室3人それぞれによるコラム

 

ここ10年ぐらいずっとリズム歌謡について考え続けているLL教室。

ニッチすぎる分野ではあるので、いろんな趣味嗜好の人々が集まることでおなじみの文学フリマの中でも、ひときわ間口が狭いであろうことは自覚しています。

しかし、LL教室が日頃から言ってるような「すべてのJ-POPはパクリである」「日本の音楽は全部リズム歌謡に聞こえる」「ジャンルに貴賎なし」といった観点に立つとき、リズム歌謡を考えることは、結局はJ-POPも含む日本のポピュラー音楽全体をとらえる視野を手に入れることであると思っています。

 

ぜひ文学フリマ東京39のJ-19ブースにお越しください。