森の掟

J-POPやメタルやフェスや音楽番組なんかの批評(という名の無益な墓掘り行為)

『ゴーストバスターズ アフターライフ』映画評と2015年リブート版の供養(ネタバレあり)

30年ぶりの続編

ゴーストバスターズ アフターライフ』が公開された。

 

1984年に公開され世界的な大ヒットとなった『ゴーストバスターズ』、そして5年後の続編『ゴーストバスターズ2』は、いまだに多くのファンをもつ作品。

かくいう自分もその一人で、80年代に何度かテレビで第一作目が放映されて気に入り、2はリアルタイムで観た。ファミコンでゲーム化されたやつもやった。

 

 

 

今回の『アフターライフ』は2から30年ぶりの正統な続編ということですが、実はその間にリブート版が存在してる。

 

ただリブート版は初期2作とは異なる世界線の話として作られているので、話は繋がらない。今回『アフターライフ』を観るにあたっての予習からは外してOK。

(ただしリブート版は駄作でも蛇足でもないですしその理由はこの後くわしく説明してます)

 

「ニューヨーク性」がたまらない初期2作

初期2作の舞台は80年代のニューヨーク。

 

主人公は、怪しげな超自然現象を研究してるせいで大学を追い出されてゴーストバスターズ業を起業することになった科学者3人と中途採用の1人。

オンリーワンな技術で街のゴースト退治を進めていくうちに、世界を破滅に導かんとする巨大な超自然的存在に立ち向かうことになり‥というお話。

 

ところが、実家を担保に借金して起業し周囲の理解もなく追い詰められ、終盤にはニューヨーク全体どころか世界の存亡が自分たちにかかっているというのに、軽口をたたきあったりしていていまいち深刻さがない。

 

有名なマシュマロマンも、世界を破滅に導くモノの姿を自分で選べと言われて、みんなできるだけ何も考えないようにしてたのに、つい思わず頭の中に思い浮かんでしまったのがあの姿だった、という経緯だったり。

 

 

終始そんな感じの軽薄でとぼけたノリのまま飄々と世界を救ってしまうゴーストバスターズに、幼少期の自分はすっかり憧れてしまったのだった。

 

それは、こんな大人たちがいるニューヨークっていう大都会に対する憧れでもあった。

 

実際、第一作の最後のセリフは、ウィンストンが叫ぶ「I love this town!」だった。

(吹き替えだと「この街だいすきだ」、字幕だと「ニューヨーク万歳」)

 

活気にあふれていて、自由な大人たちが人生を謳歌してる、そんなニューヨーク。

一方で、世界中から集ったものすごい数の人間が生き馬の目を抜くバトルを繰り広げ、怨念が地層みたいに200年ぶん積み重なった魔都としての顔もある。

 

1989年の続編では、そんな都市生活者たちの生む膨大な負のパワーが、禍々しい古代の悪者が蘇るエネルギーになったりもする。

 

つまり、『ゴーストバスターズ』っていうのは、ニューヨークならではのお話。

 

リブート版は時代より5年早かった

2015年のリブート版は、大学を追い出されて起業すること、4人目のメンバーは黒人で中途採用などの骨格部分は共通しつつ、主人公を女性科学者にするという大胆かつ現代的な意欲作だった。

また、主演に当時のアメリカを代表するコメディアンを起用しているという点もオリジナル版と共通している。

 

ただ、このリブート版は、アメリカを中心に往年のファンに激しくバッシングをくらってしまった。

 

主要キャスト全員女性の新『ゴーストバスターズ』に非難、ハリウッド性差別問題 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

 

「俺たちのゴーストバスターズフェミニズムの道具にするなんて許せん!」みたいな感情をそのまま吐き出すのは、2015年の当時も今もお行儀よくないけれど、そんな感情を裏に隠して「女だからっていうわけじゃないけど、単純にスベってるから嫌い」という、反論しづらいかたちで叩くことは可能だった。

 

世間の大多数にとってジェンダー意識が変わってきて、そういう時代だよねって普通に言えるようになってきたのはここ最近なので、今なら理不尽なバッシングはここまでいかなかったかもなと思う。

このリブート版は5年早かった。

 

個人的にはこのリブート版、ギャグも冴えてると思うし、キャラクターも魅力的だと思う。俺たちのゴーストバスターズが台無し!みたいな気持ちは全然わかなかった。

 

むしろ、人種も文化も多様な大都会で、みんなひとりの大人として自由に生きてるっていう、初期2作のキモであるニューヨーク性はしっかりと継承されているので、かなり好印象。

 

 

なので、今回『アフターライフ』が公開されると知ったとき、リブート版の続編がなくなったということでちょっと残念ではあった。

 

(『アフターライフ』のパンフレットを読むと、監督が今回の作品を撮るにあたってリブート版はとても重要だったとリスペクトの言葉を述べていて、ちょっと報われた気持ちにはなった)

 

 

過去作と対照的な『アフターライフ』

『アフターライフ』の予告編はかなり前から映画館で流れていたんだけど、そこに映っていたのは、アメリカの田舎と少年少女。

 

つまり、大都会ニューヨークで大人たちが活躍する、あのゴーストバスターズとはかなりかけ離れているわけで、正直自分もかなり不安な気持ちのまま映画館へ足を運んだ。

 

 

今回の主人公は12歳の少女、その兄とシングルマザーの母。

この母っていうのが、ゴーストバスターズのメンバーの一人だったイゴンの娘。

家賃を払えず追い出され、イゴンが晩年過ごしたオクラホマ州サマーヴィルの家に引っ越すところからストーリーが展開していく。

 

初期2作やリブート版の舞台であるニューヨークでは、基本的に誰がどんなことをしていようとも、干渉されない。登場人物はみんな独立した個人であり、タテの関係もない。

 

それと比べると、イゴンの娘たち家族が引っ越したオクラホマ州サマーヴィルは、みんな地に足をつけて家族と暮らしてるし、一方で隣人への陰口はすごい。

あらゆる面で初期2作&リブート版とは対照的な世界。

 

(ここからネタバレ)

過去作と対照的だった『アフターライフ』。

それでも、しみじみいい映画だった。

 

往年のファンとしては、あの車両(ECTO-1)がサイレンを鳴らして走ってるだけでアガるし、やっぱり最終的にオリジナルメンバーが揃ったところからは涙腺がもうダメでした。

 

ゴーザに「お前は神か?」と聞かれてどう答えるか、っていうのは30年越しの伏線回収ギャグになってるし、いちいち気が利いてた。

 

『アフターライフ』の主人公フィービーの祖父イゴンは、ゴーストバスターズの中では、まじめすぎるがゆえに変人というキャラだった。

その性質が隔世遺伝した主人公フィービーは、自分らしくあると世間になじめない。

フィービーの母は、イゴンが変人をこじらせて自分を捨てたと思い込んでいるので、娘が同じようになってしまうことを心配している。

最後に父の真の狙いや自分への思いがわかって、娘への気持ちが変わるという、母の側のドラマもしっかり描かれている。

 

そう、『アフターライフ』は、初期2作をリアルタイムで観ていた40代後半の親が、小中学生の子供と一緒に映画館に行くように作られてる。

我が家も完全にそうでした。

 

マーケティング的にも、ドラマの構造的にも、ゴーストバスターズは過去作のように独身貴族じゃなく親子である必要があった。

ちっちゃいマシュマロマンにケタケタ笑う小学生と、淡い恋愛にドキドキする中学生と、秘められた父の思いに涙する親とが、幅広く満足する映画になっている。

 

で、最後にオリジナルメンバーがエクト1を引き取って戻っていくのは、ニューヨーク!

ここで涙腺にダメ押し喰らった。

 

エンドロール後の落とし前

『アフターライフ』は、エンドロールの途中と最後に重要なシーンが2つあるので、最後まで席を立たないほうがよいです。

 

ひとつめ、初期2作のヒロインであるディナ(シガニー・ウィーバー)がピーターを相手にカードの透視テストをやるシーン。第1作でピーターはこのテストを悪用して女子学生を口説こうとするんだけど、あれは2022年の観客の価値観からするとやっぱりお行儀が悪く感じる。

それを30年越しに反省させることで、初期2作をすっきりした気分で見返せるように調整をかけたんだろう。リブート版をバッシングしてた男たちに向けてるって面もある。

 

もうひとつが、オリジナルメンバー唯一の黒人であるウィンストンが、ゴーストバスターズを辞めてから不動産業界でのし上がったことを述懐するシーン。

オリジナルメンバーの他の3人が白人で科学者なのに対して、ウィンストンは中途採用で「ちゃんと給料もらえるなら何でも信じるよ」みたいなことを言う低学歴キャラだったわけで、はっきりと差別的とまでは言えないまでも、やはり黒人へのステレオタイプを助長する存在だったことは否めない。

そんなウィンストンをビジネスの世界の成功者として描き、ゴーストバスターズでの経験があったからこそ現在の自分があると語らせることで、後づけだけどこっちも調整をかけてきたなと思った。

 

つまり『ゴーストバスターズ アフターライフ』は、往年のファン、青少年の新規顧客、そして現代の価値観という各方面に配慮が行き届きつつ、映画そのものとしてしっかり没頭して楽しめる、見事な出来でございました。

 

 

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