2017年のNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」を最後まで観終わった。
終わってみると、あまりダレることなく観続けることができて上々だったかなと。
近年との比較でいうと、「真田丸」「平清盛」ほど夢中になったほどではないけど、「八重の桜」のように途中で観なくなってしまったほどではないという、ちょうど中間ぐらい。
1年前、主人公や周囲の人物のあまりのマイナーさに、これは大河じゃなくて小川ドラマになりそうだなと、でもそれはそれでおもしろいかもと、ブログで書いていたりしたんだけど、半分は当たっていて半分は外れたなと。
たしかに前半期は、今川家という大大名に翻弄される地方豪族の悲哀がメインテーマだったし、柳楽優弥が率いる非定住民の集団は網野善彦せんせいが扱った「悪党」のイメージで、そういう世界が描かれるだろうというのも予測が的中した。
さらにいうと、女性が主人公の大河ドラマによくある、「史実以上に活躍しすぎ問題」はやはり今回も見受けられた。そこも予想通り。
で予想通りでつまらなかったかというと、決してそういうことはなく、吹越満と高橋一生による小野親子の2代にわたる嫌われ役が実は‥っていうあたりはすごくドラマ的に盛り上がった。
あと、今川ににらまれてホームタウン井伊谷の支配権を近藤とかいうやつに奪われた後の、寺を拠点とした地元との関わり方は、いろんな権力構造が並立してごちゃごちゃしていた戦国期の感じとしてすごくリアルでおもしろかった。織田ー豊臣ー徳川が中央集権的な国を完成させていく前の、中世っぽいありかた。
そんな感じで、まあそこそこおもしろく前半を観てきた。
しかし、10月頃になると主人公が直虎から菅田将暉演じる井伊直政に交代するようなかたちに。
舞台も井伊谷の山村から、浜松の徳川家に移ってくる。
自分としては、ここから一気におもしろみが増した感じがしていました。
構造としては、武田と織田に挟まれた小大名としての徳川家の悲哀ってことで、今川と織田に挟まれた井伊家という前半期と同じ。
信長の疑いをはらすために我が子を切腹させなければいけなくなった家康という、戦国時代のいろんなエピソードのなかでも屈指のドラマ性をもつシーンも、見事に描いてたと思う。海老蔵の信長も、阿部サダヲの家康も、よかった。
で、同じ構造だけど後半のほうが盛り上がった感じがしたのは、何よりも徳川家臣の面々がつくりだすグルーヴ感にぐいぐい引っ張られたからだと思う。
榊原康政の尾美としのり、酒井忠次のみのすけ、本多忠勝の高嶋政宏、本多正信の六角精児という布陣ね。
温厚でかっちりした榊原、ちょっと嫌なやつの酒井、豪快な忠勝、不気味な正信という感じでキャラが立っていて、徳川家が巻き込まれるいろんな事件のたびに、この名バイプレーヤーおじさんたちがああでもないこうでもないと議論する様子が、見てるだけで楽しかった。
「信長の野望」なんかのゲームだと、榊原康政や酒井忠次は中途半端な能力値しかなくて使いづらいイメージが強いし、大活躍したという歴史上のエピソードも実際ほぼない。ただ、古くから家康をずっと支えてきた忠臣たちっていう。そんな人物を超いい感じに立ち上がらせてくれたなって思う。
ただ徳川家まわりで気になったのが、家康の心がきれいすぎるっていうところ。
こんなきれいな家康が、この15年後ぐらいに、秀吉亡き後にありとあらゆる手を使って天下を獲りにいくようにはどうしても思えなかった。
もちろん、このドラマの中ではそこまで描かないので、きれいな家康のまま終わっていっても何の問題もないんだけど、この家康ならやりかねんなと思わせてほしかった。
大河ドラマって直虎に限らず、良いことも悪いこともたくさんやってきた人物の場合、有名な悪エピソードは無視するわけにもいかず、でも脚本家としてキャラをぶらすこともしたくないっていう難しさにぶつかることが結構ある。
豊臣秀吉なんてその最たるもので、若い頃のみんなに愛されるエピソードと、晩年のヤバすぎる狂ったエピソードの落差がすごいわけ。それを両方ちゃんと描いて、一人の人物の中に両方の面が存在していることを示し、「だから人間ってすごい/こわい」って思わせてくれるのが最高の大河ドラマのあり方だと思ってる。
ただそういうのって本当に難しいだろうなと素人でも感じる。
そこで、悪いことは別のキャラの入れ知恵にするとか、何か事情があって仕方なくやったとか、そういう処理が一般的に大河ドラマではよく使われている。それでいくと、もし「おんな城主 直虎」で関ヶ原の戦いまで描いたとしたら、この家康の悪いエピソードは、すべて本多正信のせいにしていたんだろうか。
などなど、いろいろ脈絡なく書いてきたけど、大河ドラマはやっぱりおもしろいなと。
歴史上の人物を、史実を歪めすぎない程度にキャラをふくらませて、現実の俳優をキャスティングする。
歴史上の有名なエピソードに対して、事実関係は歪めず、資料がない部分をふくらませて、ドラマのテーマに沿うような解釈をほどこす。
っていう縛りの中でのクリエイティブな作業を、毎年、潤沢な予算と才能で見せてもらえるわけだから、みんなもチェックしておいたほうがいいと思います。
<おまけ>
酒井忠次のひとの30年前の姿。ドラム叩いてる。