2016年4月にリリースされたBABYMETALの2ndアルバム『METAL RESISTANCE』(メタル・レジスタンス)は、文句なしの名盤です。
デビューしたばかりの頃はまだ今のような音楽性が固まりきっていなかったため、1stアルバムはアイドル色やEDM色が多少入っていてとっちらかった印象だったけど、それに比べてこの2ndは、世界観がかっちり決まった上で作られてて、アルバムとしての統一感がすばらしい。
だけどその一方、個々の収録曲には、いろんな元ネタが散りばめられていて、メタルやラウドミュージック全般におけるちょっとした百科事典みたいなアルバムなのです。
90年代にひととおりメタル周辺を聴いてきた人間としては、散りばめられた元ネタを拾っていく作業がとにかく楽しくて楽しくて。あの当時から20年越しにご褒美をいただいたようなアルバムになってる。
せっかくなので、これからみんなにおすそわけしていこうと思う。
「KARATE」
90年代、それまでのスラッシュメタルの流れの中から、グルーヴがあって重さをウリにした一派が出てきた。日本では「モダンヘヴィネス」なんていう名前で呼んでいたり。
代表的なバンドはPANTERA(パンテラ)。PANTERAは長髪革ジャン革パンの伝統的メタルスタイルがダサくなってきた時代の空気を敏感に察知し、スケーターファッションで登場した。ザクザク感のあるギターと、ペタペタ聞こえる特徴的なバスドラが当時は斬新だった。
最近だとMASTODONとかLamb of Godあたりがその流れをくんでいると思う。
「KARATE」の重さはまさにそのあたりが元ネタ。
Pantera - I'm Broken (Official Video)
「あわだまフィーバー」
この曲を作ったのは元THE MAD CAPSULE MARKETS(マッド・カプセル・マーケッツ)の上田剛士。
BiSなどへの楽曲提供でもおなじみの、ディストーションギターとデジタルのビートという組み合わせは、すっかりこの人のトレードマークになっている。
ただ、「あわだまフィーバー」のようなドラムンベースのビートとディストーションギターの組み合わせということになると、Atari Teenage Riot(アタリ・ティーンエイジ・ライオット)の影響も濃厚に感じられる。
Atari Teenage Riotは自らの音楽性を「デジタルハードコア」と名づけており、ガチ左翼(というかアナーキスト?)でラディカルな発言とともに当時は世界的に注目されたものだった。97年の伝説のフジロックにも出演している。
Atari Teenage Riot - Digital Hardcore
「META!メタ太郎」
この曲はおそらくMANOWAR(マノウォー)あたりの汗臭い世界感が下敷きになってるっぽい。ドイツ~北欧方面の、メタルの中でももっともむさ苦しくてモテない界隈。
偽物メタルに死を!とか言って吹き上がってる人たち。
まあ良く言えば「勇壮」ってことか。それを10代の日本の女性が歌っているというギャップにクラクラする。
「シンコペーション」
この曲はメタルじゃなくて日本のヴィジュアル系。LUNA SEA(ルナシー)の「ROSIER」がが元ネタになっている。
曲の始まり方もそうだし、サビの歌詞「揺れて揺れて」も完全に一致。さらにはサビのシンコペーションしまくるところも完全に「ROSIER」へのオマージュになっている。
※シンコペーションとは…この場合わかりやすくいうと、リズムのアクセントを小節の頭ではなく前の小節の終わりにズラすやりかたのこと。
「Sis.Anger」
この曲のタイトルはMETALLICA(メタリカ)のアルバム「St.Anger」からもってきてるわけだが、曲自体はCARCASS(カーカス)の3rdアルバム頃の音楽性が元ネタになってる。
セリフのサンプリングではじまるところとか、邪悪な音階のリフを高速ブラストビートでたたみかけるところとか、かなりそのまんま。
CARCASS(カーカス)は、デスメタルやグラインドコアという言葉が生まれる前から活動している大御所。途中でメロディアスな方向に路線を変えてきたが、初期はひたすらこういう感じ。どの時代も最高なので、ぜひ聴いてください。
Carcass - Symposium of sickness
「No Rain, No Rainbow」
これはもう完全にXの「ENDLESS RAIN」でしかない。タイトルからサウンドの作りから何もかもがオマージュに満ち満ちているんだけど、ギターソロの終わり方。ドラムに至ってはリズムパターンが完コピといってもいいレベル。
「Tales of The Destinies」
複雑な展開がたまらないこの曲は、まんまDREAM THEATER(ドリーム・シアター)。特にこの曲。
一曲の中でどんどん展開が変わったり変拍子を多用したりで、テクニック志向のキッズを熱狂させたDREAM THEATER。プログレ・メタルなんて言われてた。
こうやって見ていくと、BABYMETALの作り手たちは完全に同世代(1976年前後生まれ)ってことがわかる。というのも、メタルの黄金時代って言われているのは実は80年代だったりするので、あえて90年代に絞って元ネタにしてるのはそこがど真ん中だからなんじゃないかと。そして90年代のメタルがいかに多様でおもしろいことになっていたか、ってことも非常によくわかる。
逆に言うと、ここで取り上げなかった「Road Of Ressistance」や「Amore -蒼星-」あたりの、メロディック・スピード・メタルとJ-POPの融合とでもいうべき路線は、元ネタありきっていう感じじゃない。つまりここらへんが今後のBABYMETALの本流の路線になっていくんだろうなという気がする。