森の掟

J-POPやメタルやフェスや音楽番組なんかの批評(という名の無益な墓掘り行為)

音の不良性感度〜LL教室「J-POPの構造」浜崎あゆみ論サブテキスト

不良性感度とは

「不良性感度」という言葉がある。

1960年代に東映の岡田社長がヤクザものやエログロといった方向に舵を切った際に打ち出したフレーズで、「不良っぽさ」と同じぐらいのニュアンスの言葉。

 

当時テレビに客を奪われて危機感が募っていた映画業界が、不良性感度を強化することでテレビとの差別化を図ったという。

 

暴力や犯罪、性的逸脱といった不良の世界に対して、怖いと感じるのと同時にどこか惹かれてしまうような感覚は、多くの人が身に覚えがあるはず。

 

昭和のヤクザ映画に限らず、明治時代には清水次郎長のような侠客ものの浪曲が爆発的に流行ったって事実もあるし、不良性感度が適度に高いことは、日本においてヒットする作品の重要な要素であり続けてきた。

 

ナンシー関もかつて「日本人の9割はヤンキーとファンシーでできている」と見抜いていたけど、ヤンキー的感性がそういったものを好むのは昔も今も同じなんだろう。

 

音の不良性感度

映画の世界だけじゃなく、音楽にも当然のことながら不良性感度が高いものと低いものがある。

 

わかりやすく不良性感度が高い音っていうと、悪者が登場したときに流れるような、悪の組織のアジトでかかってそうな、そういう音のこと。

 

1960年代からずっと、一般的にそういう音楽といえばロックだった。

特に、歪んだエレキギターの音には、一発で悪いやつだとわからせる効果があった。

 

特に80年代は暴走族やツッパリといった不良カルチャーとロックンロールは密接だったので、歪んだエレキギターの音は誰が聴いても不穏な空気を喚起できていた。

 

わかりやすい例でいえば、中森明菜の「少女A」のイントロとか。 

 

サブスクにないけど三原順子の楽曲も不良エレキが効果的に使われている。

 

 

オープン講座の浜崎あゆみ

先日、われわれLL教室は「J-POPの構造」というテーマのオンライン講義を行った。

 

peatix.com

 

6月から美学校で行うオンライン講義の公開ガイダンス的な位置づけで、大滝詠一の「分母分子論」やマキタスポーツの「ノベルティソング論」を援用し、J-POPという音楽がどういう構造でできているのかについてじっくり語っている。

※6月12日までアーカイブ視聴が可能(無料)なので、よかったらぜひ。

 

そのイベントの中で、J-POPという音楽を象徴するアーティストとして浜崎あゆみを取り上げ、わたくしはおもに音楽面について影響元とか楽曲構成なんかについての解説を担当した。

 

今回あらためて、初期の浜崎あゆみ楽曲をじっくり聴き直してみて感じたのが、その不良性感度の高さ。

日本人の9割がもつヤンキー感覚にお届けするための音楽になってる。

 

不良性感度の音の変遷と浜崎あゆみ

1stアルバムのあたりでは、中森明菜からの伝統を受け継ぐような不良ハードロックギターが要所で炸裂しているのがよくわかる。

 

「depend on you」のサビ始まりにつづくイントロ8小節のギターが代表的。

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エイベックスという、ダンスミュージック専門からはじまったレコード会社の伝統に従えば、「Fly High」みたいな4つ打ち路線ばかりでもよさそうなものだけど、全体的にハードロックなギターがよく使われている。

 

ただ、90年代からゼロ年代にかけての時期に、不良性感度の音楽に大きな転換があった。

 

それまでの歪んだエレキギターに代わって、ある種の電子音が治安の悪さの象徴として使われるようになってきたのだった。

 

その背景にあるのは、90年代から勃興したクラブ文化。

脱法ドラッグとかギャルサーの事件などもあり、クラブといえば犯罪の温床みたいなイメージが一般に浸透してきたことがあるだろう。

 

浜崎あゆみが所属するエイベックスといえば、まさにそういったクラブ系音楽の総本山のようなレコード会社なので、不良の音楽の変遷にも自然に乗っかることができた。

 

 このMVのクラブ描写!

 

 

また、歪んだエレキギターという素材も、デジタル的な取り入れ方になってくる。

同時代の英米やドイツで流行ったインダストリアル系のトレンドが意識されていることは明らか。「デジロック」なる和製英語もあった。

 

 

あとはなんといってもユーロビート

エイベックスといえば、1990年からリリースが始まって先日ついにvol.250を超えた『SUPER EUROBEAT』シリーズでも有名なわけで、浜崎あゆみも過去にユーロビートのリミックスを数々リリースしている。

 

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特徴的なR&B成分の薄さ

クラブ文化以降の不良音楽の変化にキャッチアップしてきた浜崎あゆみ

具体的には、ユーロビートやトランスといった、いわゆる大箱系のクラブでかかる音楽がもつ不良の匂い。

 

クラブがない地方都市においても、深夜2時のドンキホーテとか、峠を攻める走り屋のカーステレオで大音量で流されてきた。

 

一方、浜崎あゆみがブレイクした90年代末からゼロ年代にかけては、MISIAUA、birdといった女性R&Bシンガーが大活躍した時代でもあった。

宇多田ヒカルも最初はそのムーブメントの大型新人というかたちでデビューしている)

 

ユーロビートやトランス系の大箱ではない、コアな音楽好きが集まるほうのクラブでは、むしろそっちがメインだったわけで、浜崎あゆみの音楽にR&B色が入っていないのは、意図的なものを感じる。

 

すべての曲を聴いたわけではないんだけど、浜崎あゆみの代表曲といわれる曲はいずれもR&Bの特徴であるハネたリズムになっていなくて、ユーロビート化しやすい直線的なビートでできている。

 

ガチの不良はトランスやユーロビートじゃないと思うんだけど、そこはあくまで不良性感度、つまり「ぽさ」が大事なのであり、本気すぎるとマジョリティ層は引いてしまうんだろうか。「マイルド」ヤンキーというのはそういうことなんだろう。

 

結果的にゼロ年代浜崎あゆみが戦略的に突いたポイントっていうのが、当時の日本人の一番分厚い場所だったんだと思う。

 

LL教室の本講座でやりたいこと

 

いつの時代もそういうポイントを突いてくる音楽というのはあって、個人的にはそこにすごく興味があります。

 

われわれLL教室が担当するオンライン講座「歌謡曲〜J-POPの歴史から学ぶ音楽入門・実作編」では、ここ50年の日本の音楽シーンにおいて、それぞれの時代の空気がどうなっていたか、ヒットした曲の構造や背景を読み解くことで、一緒に考えていこうと思っています。

 

bigakko.jp

 

また、インプットだけでなく実際に制作も行うなど、双方向的で生きた講座にしたいと考えています。

音楽にかかわる仕事をしたい方や、音楽をより深く味わいたい方にオススメします。

 

まだまだ受付中です。

よろしくおねがいします!