森の掟

J-POPやメタルやフェスや音楽番組なんかの批評(という名の無益な墓掘り行為)

矢沢永吉やドリカムや松田聖子にできなかったことをX JAPANとBABYMETALができた理由(世界一やさしいヘヴィメタルという音楽)

X JAPANやBABYMETALが海外でめっちゃ売れている。

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一昔前まで、日本で頂点を極めた大物歌手が次の目標として世界進出に挑戦するっていう流れがあって、ほぼ全員が無残な結果に終わるっていうパターンがあったことを思うと、隔世の感がある。

 

たとえば矢沢永吉

名著『成りあがり』を出版するなど日本では飛ぶ鳥を落とす勢いだった頃に単身渡米。ドゥービー・ブラザーズらをバックに従えてアルバムをリリースしたものの、目立った売り上げにはならなかった。

たとえば松田聖子

「seiko」を名乗り、当時世界的に人気があったニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックとデュエットするなど様々な戦略を練ったにもかかわらず、こちらも目立った売り上げにはならなかった。

たとえばドリカム。

わざわざレコード会社を移籍するなど万全の体制を整えて海外進出したものの、解散の危機だったと後に語られるレベルの大失敗。

 

これらの事例をみて、当時の大人たちは訳知り顔でいろんなことを言っていた。

いわく、「日本のロックはレベルが低いから本場では通用しない」「英語の発音が下手だからネイティブが聴いたら笑っちゃう」「逆にアメリカ人が歌舞伎をやったら見たいと思う?それと同じこと」などなど。

 

 

そんな時代を知っている世代からすると、X JAPANとBABYMETALが成し遂げたことって、ほんと奇跡みたいに感じる。

でもそれと同時に、なぜ矢沢永吉やドリカムや松田聖子にできなかった海外でのリリース的な成功をX JAPANとBABYMETALができたのか、その理由についていくつか思い当たることもある。

 

まあ、いくつかの理由が複合的に作用したのは間違いないと思うし、すでにいろんな人が言及しているので、この場ではできるだけまだ誰も指摘していない点について無責任に述べてみたい。

 

 

インターネットが普及する以前、未知の音楽に触れる場所としては、ラジオやテレビや雑誌、またはレコード屋の店頭ぐらいしかなかった。そんな状況で欧米の若者が「日本のロックをわざわざ聴く」ことは、相当にマニアックなことだったはず。

以前にアメリカでライブをやったことがあるんだけど、そこで知り合った同世代ぐらいの音楽好きのアメリカ人と話したとき、知っている日本のアーティストといえば、メルトバナナとかコーネリアスとかだった。サンフランシスコのレコード屋に入ったときにちょっとだけ日本のCDも置いてたんだけど、やっぱりノイズやハードコアが中心だった。J-POPは皆無。

まあそれも考えてみれば当然のことで、自国にも聴き尽くせないほどの音楽が溢れているにもかかわらず、わざわざ日本のロックを聴こうと思うからには、日本にしかないものを求めるだろうと。すると必然的にとがったものを求めがち。

(逆の立場で考えるとよりわかりやすいんだけど、自分がアジアのどこかに旅行して現地の音楽を買おうと思ったとき、英語で歌ってる本格派R&Bとかわざわざ買わない。現地の言葉で歌っていて、サウンド面でもお国柄が多少なりとも感じられる方がうれしいはず)

 

にもかかわらず、90年代までの海外進出のパターンって、日本で頂点を極めたあと「自分たちなら本場アメリカで通用するのではないか」と考えて進出した感じだったし、「本場アメリカで通用」するためにはネイティブに近い英語は必須だし、アジア臭さはできるだけ消臭しないとダメだと思い込んでしまったように見える。

そう考えてしまう気持ちもわからないでもないけど、そうやって「本場アメリカ」仕様に消臭すればするほど、せっかくのオリジナリティをみずから削ることになっただろうし、まあよっぽど他の部分でもズバ抜けていないと埋もれるわな。

 

 

だってどんなにがんばっても、アメリカ人からしたら日本の音楽は「ワールドミュージック」枠。ロックだろうがR&Bだろうが関係なく。

日本のレコード屋でも、アメリカやイギリスの音楽であればちゃんと「ロック」「R&B」といったジャンルごとに分類されているのに、フランスとかブラジルとかのアーティストっていうだけで、中身に関係なく「ワールドミュージック」の棚に並べられてしまいがちでしょう。現地ではトラックの運転手が聴くような八代亜紀的なポジションの歌手であっても、フランス人ってだけでフレンチ棚に並べてしまう感覚。

 

この、アメリカやイギリス以外の国の音楽がワールドミュージック扱いされてしまう感覚がある限り、日本のアーティストが「本場アメリカ」のど真ん中で成功するのは難しいように思える。

 

絶望。

 

 

だけど、実はただひとつだけ例外があって。

それが、ヘヴィメタルというジャンル。

 

ヘヴィメタルに関してのみ、どこの国の出身かはまったく不問なのであった。

そういった意味で、世界一やさしい音楽ジャンルだと思っている。

 

たしかにヘヴィメタルの世界でもイギリスやアメリカのバンドが圧倒的に多いのは間違いないけど、たとえばドイツや北欧なんかは昔から多くの世界的な人気バンドを輩出してきている。古くはスコーピオンズハノイ・ロックスやハロウィン、最近だとチルドレン・オブ・ボドムやアーチ・エネミーなど。

また南米もメタルが盛んらしく、ブラジルのセパルトゥラは特に有名。

他にも台湾を中心としたアジアや東欧あたりもアツいと聞いたことがあるけど、とにかく、どの国出身であろうが、メタルであればメタルの棚に分類してくれる。

 

メタル愛好家たちは、基本的にどの国の出身であろうが関係なく聴く習慣がある。

彼らが気にするのは、ホンモノかニセモノかだけ。

 

海外でBABYMETALの人気に火がつき始めた頃、BABYMETALはホンモノかニセモノかで世界中のメタル愛好家が真っ二つに分かれるような論争があった。

だけど、自分が見た限りでは日本人だから云々という話では全然なく、純粋に、あれをメタルとして受け入れていいのかどうか、みんな真剣に悩んでいた感じ。

 

そういうジャンルだから、出身国のハンデなしに売り上げることができたんだろうなと。

メタルファンという固定層がどの国でもベースにあって、その上に、Youtube経由で知った人の分が乗っかってる感じではないでしょうか。

X JAPANもその構造は同じだと思う。

 

やはりヘヴィメタルはやさしい。

 

 

<おまけ>

イギリスのシンフォニックメタルバンドがX JAPAN「紅」をカバーしてる。日本語で。


Damnation Angels [2012] - Kurenai (X Japan cover)