かつて空前のバンドブームがあった
1980年代後半の日本は空前のバンドブームだった。
1989年から放送を開始した「イカ天」こと「三宅裕司のいかすバンド天国」(TBS)にはたくさんのアマチュアバンドが出演し、勝ち抜いたバンドが次々にメジャーデビューしていった。
もともと80年代前半にパンクやニューウェーブといったジャンルを中心にインディーズシーンが盛り上がっており、それが全国レベル&お茶の間レベルに広がっていったもので、人数が多い団塊ジュニア世代が10代だったタイミングということもあり、とにかくロックバンドなら誰でもデビューできたといわれるような時代だった。
イカ天以前のブーム初期を代表するバンドといえば、なんといってもザ・ブルーハーツとボウイであろう。この2バンドはその後のシーンに多大な影響を与えた。
他にも、ジュン・スカイ・ウォーカーズやプリンセスプリンセス、ユニコーン、ザ・ブーム、レピッシュ、BUCK-TICK、筋肉少女帯といったバンドが続々と登場してきたのがこの時代。
上記に挙げた面々は、ブームに便乗したというよりはたまたまデビューがその時期だったというぐらいで、音楽性に特に共通点はない。
だが、前の時代のインディーズブームの流れをくんでいる部分があるせいか、全体的にこの時期にはパンク・ロックやいわゆるビートロックのバンドが多かったのも確か。
特にブームに便乗するようなかたちで出てきた後続のバンドたちにはその特徴が顕著だった。
なので、バンドブームときいて頭に浮かぶ音像っていうとだいたいそんな感じだと思う。
案外ラテンでアフロでトロピカルだった面
しかし、バンドブーム期にはそれとはちょっと違う潮流もあった。
タテノリのパンク一辺倒ではなく、ラテンでアフリカンでトロピカルな曲が案外多いんだよね。
リアルタイムの頃にもぼんやり感じていたんだけど、大人になってからあらためて聴き直してみてその傾向がはっきり見えてきた。
ということで今回は、ギター、ベース、ドラム、キーボードっていう基本的なロックバンドの編成でそういったリズムに取り組んでいる曲たちを集めてみたらおもしろいんじゃないかって思って、プレイリストを作ってみました。
AppleMusicはこちら。
続いてSpotify
※Spotifyにはスカンクとニューエストモデルが入ってなかったので2曲少ない。
スカパラの数ある曲のなかから1stの「ドキドキTIME」を選んでること、レピッシュからは「BANANA TRIP」、米米は「なんですかこれは」を選んでることから、このプレイリストが伝えたい何かしらを感じ取っていただけるんじゃないかと思ってるんだけど。
何かしらを感じ取れなかった人むけの解説
何かしらを感じ取れてしまった40代後半ぐらいの方々にはもう何も言うことがないのでさっそくプレイリストをお聴きください。
何かしらを感じ取れなかった若手の方々むけに以下すこし解説。
なぜバンドブーム期にこの手の音がちょっと流行ったのか。
まずバンドブーム期のバンドの中で、「スカ」がちょっと流行ったというのがある。
80年代のイギリスで、スペシャルズやマッドネスといったバンドに代表されるいわゆる2トーン・スカが流行った。もともとザ・クラッシュをはじめとするイギリスのパンクバンドがレゲエに傾倒していたりするし、パンクバンドがスカをやることはわりと自然な流れだった。
日本ではルースターズとかボウイがかっこよくスカを取り入れてたこともあり、その後のバンドブーム期にスカっぽいリズムの曲をやっていたバンドはけっこう多い。
このプレイリストでいうとカステラとかザ・ブームとかスカンクあたり。
なおスカパラはイギリス経由の2トーンというよりは本場ジャマイカから直輸入したスカなので、それらとは毛色が違う。今回のプレイリストには、スカっていうよりもカリプソみたいな曲を選んでみた。
80年代イギリスからの影響でいうと、ファンカラティーナっていうちょっとしたブームの影響もあると思う。
パンクよりはもう少しダンスミュージック寄りでアダルトな感じで、ラテン要素を取り入れた音が「ファンカラティーナ」と呼ばれて少しだけ流行ったのである。
このプレイリストでいうと米米CLUBにはファンカラティーナの要素を感じる。
あと80年代にはアフリカのポップ音楽が世界的に注目された。
キング・サニー・アデやサリフ・ケイタやユッスー・ンドゥールといったアフリカ人のミュージシャンのサウンドが、英米のリスナーの耳を驚かせる。
もちろん、その驚きは日本にも伝染した。
これらのトレンドから、80年代の日本のロックバンドがタテノリ一辺倒じゃないリズムに触れたり、トランペットやパーカッションをアレンジに取り込むことについて、ハードルがだいぶ下がったりとかノウハウが蓄積されたりしていたんじゃないかと思われる。
エスニック
80年代後半の日本では、「エスニック」って言葉が流行語になった。
円高の影響で海外旅行に行く日本人が増え、特にそれまでなじみがなかった東南アジアなどの地域の料理が日本に紹介されたりして。
おそらくその延長線上で、音楽についても英米一辺倒じゃなく世界のいろんな国の音楽を楽しむようになった。
前述したような世界的なトレンドが、日本にも結構そのまま入ってきて、民族音楽的なアプローチが最先端でイケてるっていう雰囲気すらあった。
映画『AKIRA』ではバリ島のガムランやケチャが、『攻殻機動隊』ではブルガリアの複雑なコーラスが取り上げられたのもその文脈。
「エスニック」の名のもとに、かなりいろんなものがひとくくりに南国っぽいものとして受け入れられたバブル期の日本。
そしてエスニックを味わう心は日本自身にも回帰してきて、沖縄民謡や河内音頭がワールドミュージックとして再発見されたりもした。
当時のそんな雰囲気を表現すべく、プレイリストに「エスニック」と名づけてみた次第。
ボ・ガンボスの未発表音源からバンド編成初期の河内家菊水丸、ラテン度合いがガチすぎるS-KENなど、われながら聴きどころ満載と自負してますが、この機会にみんなに知ってほしいのはなんといってもKUSU KUSU。
当時はアイドルバンドっぽく見えていたので自分も甘く見てしまっていたんだけど、高速ラテンでアフロビートでパンクっていう実は他に類を見ないめっちゃかっこいいことをやってた。若々しいのに完成度も高く、10年ぐらい前にたまたまアルバム聴いてぶっ飛んだのよね。
で調べてみたら、じゃがたらに影響を受けて音楽性がこうなったとかで、ついにはじゃがたらのメンバーがマネジメントしてたっていうのでカッコいいのも納得。