森の掟

J-POPやメタルやフェスや音楽番組なんかの批評(という名の無益な墓掘り行為)

「The」から始まるバンドはなぜ多いのか(多い気がするのか)問題

ロックバンドって「The」から始まるバンド名がやたら多い気がする

昔、カセットテープにレタリングシートでアルバム名とアーティスト名を記載していったとき、特定の文字だけが減るのが早かった。

(レタリングシートがわからないという若い人は各自ググってください)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/c/c4/Letraset-boegen.JPG

減るのが早かった特定の文字っていうのは、「T」と「S」。

なぜこの2文字が?って考えたときにひとつの仮説があって、「The ◯◯s」という名前がやたら多いからじゃないかって。

「The ◯◯s」というバンド名を記載するときに必ず「T」と「S」を使うわけで。

 

昔からThe BeatlesThe Rolling StonesThe Beach BoysThe Doors、The Sex PistolsThe Stone Rosesなどなど、挙げればキリがないほどで、「The ◯◯s」というのはバンド名の定番な気がする。

そりゃ「T」と「S」減るわ。

 

 

でも、「The」で始まるバンド名って本当に多いんだろうか。

多いとして、どれぐらい多いんだろうか。

 

という素朴な疑問を、ちゃんと調べて定量化した人がいた!

2006年~2017年のロッキンジャパンフェスの主要ステージ出演者のバンド名をすべてカウントしてる。すばらしい。

 

note.mu

 

 

結論としては、ここ10年のロッキンジャパンフェスに出たバンドのうち、「The」で始まるバンドは、30組。割合でいうと5%しかいなかった。

思ってたよりもだいぶ少ないなと感じる人が多いのではないだろうか。

 

思い込みと実態のこの落差、個人的にめちゃめちゃおもしろかったので、今日はそこらへんの背景を読み解いてみます。

 

なぜロックバンドは「The ◯◯s」を名乗るのか

「The ◯◯s」という名前は、ロックバンドという形態がこの世の中に誕生した直後からあった。

つまり1960年代。

The BeatlesThe Rolling StonesThe Beach BoysThe Kinksあたりですね。

リードボーカル、ギター、ベース、ドラムという4人編成またはギター2人やキーボードも含めたロックバンドの典型的な構成というものが出来上がってきた時期。

 

日本でも60年代なかば頃に「グループサウンズ」という名前でロックバンドが生まれた頃は、ザ・タイガースザ・スパイダース、ザ・テンプターズってな具合に「The ◯◯s」のフォーマットに則ってバンド名がつけられていた。

https://www.rittor-music.co.jp/pickup/images/20171002_pu7.png

 

 

おもしろいのが、「おれたちはそこらの普通のバンドと一緒にされたくないぜ」的な、とんがった思想のバンドであっても、60年代にはお行儀よく「The ◯◯s」的な名前を名乗っていたということ。

具体的にいうとThe DoorsやThe StoogesとかThe Velvet Undergroundとかのことね。

 

バンド名ってそういうもの、っていう暗黙の前提があったかのよう。

実際あったんでしょうね。

 

バンド名のThe離れ

その後、70年代に入ってロックバンドの音楽性やルックスなどが多様化していくにつれ、「The ◯◯s」じゃないバンド名が増えていく。

Led ZeppelinQueenKing CrimsonGrand Funk Railroad、KISS、サディスティック・ミカ・バンドはっぴいえんど、外道、NEU!KRAFTWERKAC/DCなどなど。

英米日独豪問わず世界中で、いろんな自由な発想でバンド名がつけられるようになり、The離れが進んでいく。

 

Theじゃなくてもいいんだ!っていう気分。

それは、「このバンドは古い価値観に縛られず新しいことをやりそう!」っていうイメージを身にまとうにあたって有効だったに違いない。

 

30代以上の人にはわかってもらえると思うんだけど、野球チームの名前といえば「タイガース」「ライオンズ」「ドラゴンズ」的な、動物の名前の複数形でつけるもんだと思っていたところに、いきなり「ブルーウェーブ」が登場したときの驚きね。

あのイチローの新人類感と「ブルーウェーブ」っていうチーム名は不可分だと思う。

https://i.daily.jp/mlb/2016/08/08/Images/d_09366621.jpg

 

というわけで、バンド名のThe離れは80年代以降も基本的に続いていた。

むしろ、ここまできたらあえて「The」を名乗ることに意味が生じるぐらいの話になってると思う。

 

祝日に日の丸を飾る人

そう。どんなバンド名(「!!!」っていうバンドもいるぐらい)もアリなこの世の中で、

いまや「The」を名乗ることには意味が生じてる。

60年代のバンドがみんなそうしていたように「The」を名乗るというのは、それらのバンドのようにありたいんですウチは、っていう意思表示が含まれてるわけ。

 

典型的なのはヒロトマーシーで、「The Blue Hearts」「THE HIGH-LOWS」「ザ・クロマニヨンズ」と、徹底して「The ◯◯s」にこだわってる。

海外でも、The StrokesだったりThe HivesだったりThe White Stripesだったり、21世紀に「The」を名乗るバンドはみんな、あの時代の空気感を身にまといたがってる感じ。

 

この「あえて」感は、祝日に日の丸を飾る家みたい。

ロックバンドたるものそうすべき!と主張したいとか、うちは伝統的なロックンロールのバンドですと表明する役割がある。

 

実家ぐらしでおじいちゃんの習慣を引き継いだとかならまだしも、自分が世帯主の家で、祝日に日の丸を掲げるという行為、2018年の社会ではかなりメッセージ性が強いと思う。

 

しかしおそらく、80年前であればむしろ日の丸を掲げてない家のほうが少なかったのではないか。祝日とはそうするもんでしょっていう暗黙の空気があったはず。

 

旗日(はたび)とは - 旗日の読み方・日本語表現辞典 Weblio辞書

↑こんな言葉もいまや死語なわけで。

 

バンド名をつけてみよう

自分たちでバンドを組んだらまずはバンド名をつけなければいけない。

高校の軽音部でも凄腕ミュージシャンの集まりでもそこはみんな同じ。

 

で、いざバンド名をつける段階になるとですね、たいがいなかなか決まらない。どんなバンドにしたいかという思いがどうしても乗るので、そもそもそこが認識があってないと決められないしな。

どんなバンドにしたいかの認識が揃ってたとしても、そのことを反映させたバンド名にするかどうかでまた一悶着。

たとえばメタルをやるバンドの名前がデスなんとかとかメタルなんとかでいいのか。そのまんまやろって意見が絶対メンバーから出る。

かといって、ひねりすぎるとそれはそれで中二ってか高二っぽくてあとあと恥ずかしい。

バンド名なんてなんでもいいんだよっていう立場は結局、思想がないという思想性を帯びてしまう。

 

バンド名は難しい。

今までの人生で何度かバンド名をつけてきたけど、 すんなり決まったためしがない。

初ライブの直前まで決まっていないことなんてザラで、下手するとバンド名で揉めて解散しかけたことすらある。

 

むりやりにでも決めたとしても、自分以外の誰かの意見で決まった場合、自分で違和感なく名乗れるようになるまで半年ぐらいかかったり。

 

かつて「The ◯◯s」はめちゃめちゃ便利だった

そんな経験から言えるのは、名前なんてなんでもいいんだよって一見そういう態度をにおわせつつも、どんな音がしそうかちゃんとイメージさせられるのが、いいバンド名だと思う。

(長く活動してるとバンド名の由来を何百回と聞かれるので、後悔しないようにだけ気をつけて)

 

それでいうと、「The ◯◯s」ってのはほんと便利なんすよ。

「The ◯◯s」って名乗ってるだけで、古き良きブリティッシュな香りが勝手に漂ってくれる。◯◯の部分はなんでもいい。そこにセンスを見せればいいの。無造作にポンって言葉を置けば、いい感じのバンド名のできあがり。

 

という価値観が、20世紀の終わり頃から21世紀の初め頃までは通用していた。

その時期はたぶん今よりも「The ◯◯s」が多かったと思う。

 

しかし、おそらく「The ◯◯s」がもつ便利な感じは、年々薄れてる気がする。

かつてはそういう効力があったことを知らずになんとなく「The ◯◯s」を名乗ってる子らも結構いるのかもしれないけど、基本的にはルーツ志向な気持ちがないと「The ◯◯s」は名乗らないわけで。

 

で、よく言われるように今どきの若いもんはルーツを掘り下げて聴くということをあまりしないらしい。

SpotifyやAppleMusicの登場で今後は変わってくるかもしれないけど、21世紀になったぐらいからは、好きなアーティストのルーツを掘り下げたいという若い人は少なくなっている。実際に「音楽好きっス」ていう人たちに聞いた実感で。

 

リスナーもアーティストもルーツを掘り下げないとなると、「The ◯◯s」の効力は半減するよな。

 

実際、前述の「The」で始まるロッキンジャパンフェスに出た30組のバンドをよく見てみると、theピーズやTHE PRIVATES、the brilliant greenTHE YELLOW MONKEYなどのベテラン勢や、THE STARBEMS、The Birthdayのようにバンドとしては新しいけどやってる人がベテランというバンドがかなり含まれている。つまり「The ◯◯s」の魔法が有効だった時代から活動しているミュージシャンたちね。

 

https://ro69-bucket.s3.amazonaws.com/uploads/text_image/image/244740/width:750/resize_image.jpg

 

となると新しい世代のバンドが「The ◯◯s」を名乗る割合は、5%よりももっと低そう。

 

イメージと実態のギャップはどこから

そういったわけで、ここ10年の日本のバンドからは「The」が失われている。「The ◯◯s」の魔法が効かなくなってきているから。

それが実態。

 

なんだけど、20世紀のイメージで「The ◯◯s」が多いような印象をみんなまだ持ってる。

そこがギャップを生んでいるのではないでしょうか。

 

ただ、今後なにかの拍子に「The ◯◯s」がまた増えてくる可能性は十分にある。

日の丸を掲げる家が増えるかもしれないのと同じで、「うちはそういう家です」と表明したいとかそう表明したほうが得だぞとか考える人が増えるかどうか、時代の空気次第でどうなるかわからんよね。

引き続き、10年ぐらいのスパンで眺めるとおもしろいと思う。

 

 

そういえば、 バンド名から途中で「The」を外すひとたちもいて、これはこれで味わい深い動きだと思う。

若い頃に勢いでつけた「The」に、いい年して違和感を覚えたりとかしたのかな。「The」のせいで幅が限られてるような息苦しさを感じたりしたのかな。

 

逆に、いい年だからこそ「The」っていいよなーって改めて気づくこともありそう。

 

ビートルズを好きになるのって、最初はキャッチーな初期から入って途中でサイケ期の中毒性に気づいたりいろんな方向に深まっていって音楽性の高い後期にハマっていく流れをたどる人が多いと思うけど、それが一周して、初期の赤盤のシンプルなロックンロールが愛おしくてたまらないって気持ちになるときがくる。

いい年して「The」をつけたくなるのはたぶんそういうとき。

 

 

ちなみに、「ジ・アルフィー」はデビュー当時「The」がついてなくて、デビューから数年たった後、この曲をリリースしたタイミングで「The」をつけてます。


THE ALFEE SWEAT & TEARS P 1986

 

たしかに「The」を名乗りたくなる曲ですね(しらんけど)。