森の掟

J-POPやメタルやフェスや音楽番組なんかの批評(という名の無益な墓掘り行為)

フジロックはアメトーークじゃない

今年も土曜日の1日だけフジロックに行ってきた。

http://www.fujirockfestival.com/assets/img/logo.png

 

フジロックはいつのまにか20年も続いてる。つまりあれから20年も年とったのか。

実は1997年の伝説になった第一回から、毎年欠かさず参加しているんだけど、つまり成人してからの夏はずっとフジロックとともにあるんだな。われながらすごいと思う。

 

最初は西宮から何台かの車に乗って乗り込んだ大学生だった。若さゆえ車中泊もやった。

何年かして東京に移住し、大勢で宿のワンフロアに雑魚寝したこともあった。

バンドマン界隈の仲間が出演することになって、嫉妬と祝福が混ざりあった複雑な気持ちでステージを見たこともあった。

そして今、妻に子供の面倒を押し付けて後ろめたい感じで3日中1日ぐらい参加するようになった。

20年も通っているといろいろある。

 

 

本当にいま2018年か

数日前から台風12号が関東に上陸して西に進むという予報が出ており、中止にならなければいいやというレベルに雨風には覚悟を決め、ゴアテックスの上下に野鳥の会の長靴という、フェスの鉄板装備に身を包んで出発。

そしたら関越道を北上するにつれ雨はおさまり、会場に着いたら薄曇りで時おり太陽も顔を出す天気だった。つまりフジロックにおけるベストコンディションということ。

何なら昼下がりには完全に晴れてきて、ちょっと暑いからパラっと雨こねーかなとか思うほどだった。

 

https://www.instagram.com/p/BlwqLcKgakd/

今年も帰ってまいりましたー薄曇りという最強のコンディション!#fujirock

 

フジロックは毎年7月の最終金土日に開催されているわけだけど、3日間のうち土曜に行こうと思ったのは、民謡クルセイダーズが出るから。

「炭坑節」などの民謡をラテンのリズムで演奏するっていう日本のバンドで、去年リリースされたアルバムがめちゃくちゃ良かったので、いつかライブを見たい見たいと思っていたのです。

エコーズ・オブ・ジャパン

エコーズ・オブ・ジャパン

 

 

しかし民謡クルセイダーズの出番は真夜中のクリスタルパレス

それまでは体力を温存しつつ会場の雰囲気を味わいながらぶらぶらという作戦でのぞむ。

 

カラッと晴れたり、曇って涼しかったり、激しめの雨が通り過ぎたり、空がいろんな表情を見せるなか、マキシマムザホルモンとかジョニー・マーとかユニコーンとかフィッシュボーンとかをのんびり見た。

いずれもおなじみのベテラン勢。そしてみんな往年の懐かしい曲をやってくれる。「恋のメガラバ」「ペケペケ」「ma and pa」「How Soon Is Now?」などなど。なんだか今が2018年だというのが信じられない時空の歪みを感じながら、うれしさの反面、フジロックはこれでいいのか複雑な気持ちになった。

 

苗場の高齢化問題 

フジロッカーが高齢化してきていると言われている。

毎年会場を見ていると、たしかにそうだねって思う。

 

現在40代前半の、自分のような第一世代と、その下の現在30代後半の世代がフジロッカーのど真ん中なように見える。団塊ジュニアの最後の方にかぶるので、日本の人口に占めるシェアは比較的大きい。

なので世代を狙い撃ちした企画では狙われやすい。たとえば「アメトーーク」の「◯◯芸人」なんて、自分たち世代が中高生のときに通ってきたものばかり。出てる芸人さんが同世代なこともあるけど、やっぱ数字が見込めるっていう判断はあるだろう。

最初は無邪気に男塾とかガンダムとかのあるあるネタを懐かしんでいたんだけど、さすがにちょっと怖くなってきて。

これ20代の人とか楽しめてるのかな、いや彼らはもうテレビ観てないのかな、むしろテレビ局も開きなって団塊ジュニアの芸人と団塊ジュニアの視聴者の共依存でやっていくことに腹くくったのかなって。

もしそうなんだとしたら、自分たちの世代はこの先ずっとテレビが相手してくれるのでさびしくないかもだけど、自分たちが閉じた輪の中でニコニコやってるうちに時代に取り残されてくんじゃないかって。

 

フジロックにも同じ怖さをじわじわと感じていて。

 

ここ10年のメインステージのヘッドライナーを務めたアーティストを列挙してみたら伝わるだろうか。

2008年〜2017年の10年間の3日間のヘッドライナーをデビューした年代ごとに並べてみた。

 

1970年代

ロキシー・ミュージック

フェイセズ

ザ・キュアー

 

1980年代

レッド・ホット・チリ・ペッパーズ

プライマル・スクリーム

 マイ・ブラッディ・バレンタイン

アンダーワールド

ストーン・ローゼズ

 

1990年代

レディオヘッド

コールドプレイ

ケミカル・ブラザーズ

オアシス(&ノエル・ギャラガー×2)

ウィーザー

ミューズ(×2)

マッシヴ・アタック

ナイン・インチ・ネイルズ

ビョーク(×2)

フー・ファイターズ

シガー・ロス

ベック

ゴリラズ

エイフェックス・ツイン

 

2000年代

フランツ・フェルディナンド(×2)

アーケイド・ファイア

ジャック・ジョンソン

 

 

いやー、思っていた以上に高齢者向け。

10年×3日=30の枠があるうち、2000年代デビュー組はわずか1割!

残りの9割が、出演した時点で最低でも10年以上、平均して20年以上のキャリアがあるベテランという。

もちろん、それなりに実績がないと数万人集めるヘッドライナーなんてなれないし実績を積むまでに10年ぐらいかかるのもわかる。

けど、それにしても。

 

たとえばもし1990年にフジロックがあったら、ヘッドライナーはニュー・オーダーモリッシービースティ・ボーイズとかだったかも。いずれも90年の時点ではちょうどデビューから10年ぐらいでしょう。

もし1995年にフジロックがあったら、ヘッドライナーはストーン・ローゼズ、オアシス、ベックあたりか。いずれもオアシスやベックなんてまだアルバム1枚とかの頃!

 

そう考えると、近年のヘッドライナーの高齢化はエグいじゃないですか。

 

 

 ロックはオワコンか

 

ロックという音楽ジャンルや生き方のスタイルみたいなものは、この半世紀の間にもう何度も死んだと言われ終わったと言われてきた。

ウッドストックの頃は良かったけどそれ以降はアートじゃなくなったって70代の人は言い、パンクの頃は良かったけどそれ以降はビジネスになったって50代の人は言い、フジロックの初期は良かったけど今じゃ年寄りばかりだと40代の自分が嘆いてる。

それにしてもだ。

 

今までは、ロックの中の主流だったスタイルが陳腐化し、カウンターとして新しいスタイルが勃興してくるっていうかたちで、ロック全体の勢いは保たれてきた。

その後メインストリームになったスタイルは「ニューウェーブ」とか「オルタナティブ」とかいう名前からもわかる通り、最初は挑戦者の立場で登場したわけ。で挑戦者がいつしか次のメインストリームになり、いつしか陳腐化し、また新しい挑戦を受けるという。1990年代まではそういう新陳代謝があった。

しかし、よく考えたら1990年ぐらいからずっと「オルタナティブ」の時代が続いてるような気がする。「オルタナティブ」な音作り、世界観、たたずまいといったものはいまだに陳腐化しきっていないんじゃないか。

今の若い人にはピンとこないかもしれないけど、かつては、10年前の音楽がめちゃめちゃダサく感じられたんです。それに比べると、オルタナティブは登場から四半世紀たってもいまだに通用しちゃってる。

 

そうやってずるずるやってるうちに、ロックバンドという大枠そのものがオワコンになっていってるのかもしれない。

エレキギターエレキベースとドラム、そしてヴォーカル。メンバーは英米の白人男性。っていう基本フォーマットのロックバンドというものが、今度こそ本格的に枯れてきたんじゃないかって思う。

 

原因はいろいろあるだろうけど、まずバンドやろうぜって言ってる中高生の人数が世界的に激減してきてるのかもしれない。彼らには、近い世代で憧れの対象になるバンドはいない。フェスに出てるのは自分が生まれる前に活動してたベテランばかりだし、憧れようがない。

バンドやろうぜ勢は将来のヘッドライナー候補であると同時に、ロック音楽にお金を落とす消費者・リスナーでもある。なので、両方の意味でバンドやろうぜ勢が減るのはダメージになる。

かつて、スポーツが得意じゃない、お金持ちでもない、顔がいいわけでもないっていう男子がモテたいと思ったら、手っとり早くバンドをやったものだった。たぶん今はもうそうじゃなくなってる。そういう若者はシリコンバレーハッカソンに出たり駅前でサイファーしたりしてるんだと思う。

 

高齢化に抵抗するフジロック

そんなこんなで、世界規模で困ったことになっているロック音楽。

フジロックフェスティバルは「ロック」を掲げている以上、この問題の影響をもろに受けてしまう。

 

アメトーーク」と同じように、団塊ジュニアがニヤニヤするあるあるネタを投下し続けて、演者と観客が閉じた輪の中で仲良く年をとっていくのもひとつの戦略だろう。というか、ビジネスの観点からいえば、確実に一定のかたまりが存在することがわかっている安全なやりかたなので、それが王道なのかもしれない。

基本その路線でいきつつ、たまにおじさんにも届くような若手が登場したら、積極的に登用すればいい。Suchmosとかね。

 

 

しかし、今年のフジロックはそれをしなかった。

金曜日のヘッドライナーは、ファレル・ウィリアムスが参加する黒人グループであるN.E.R.D。

土曜日のヘッドライナーは、ピューリッツァー賞まで受賞した現代最重要ラッパーのケンドリック・ラマー。

日曜日のヘッドライナーは、言わずとしれたノーベル文学賞ボブ・ディラン

 

そう。

団塊ジュニアがもっとも反応するいわゆる90年代の「オルタナティブ」なし。

っていうかロックバンドなし。

そして3日のうち2日が黒人。

 

過去に例のない、攻めたラインナップだった。

もしかしたら、いわゆる「ロック」というものに囚われてる人にとっては、こんなのフジロックじゃない!って感じられたかもしれない。

 

 

でも、フジロックはそういう決断をしたんでしょう。

ヘッドライナーじゃないけど、ケンドリック・ラマーも一押ししたというアンダーソン・パークも出たし。

自分たちのようなフジロッカーど真ん中のところから少し幅を広げた属性のお客を呼び込もうという狙いもあるだろうし、それより何よりも、英米の白人ロックバンドというフォーマットが枯れてきたことを考慮したような気がする。

 

アメトーーク」が薄ら怖くなってきた自分にとっては、フジロックにはそうなってほしくない気持ちが強い。なので、この傾向は大歓迎。

どの方向から出てくるかはわからないけど、いわゆる「オルタナティブ」からの遅すぎた世代交代に期待してる。

 

 

 あと配信のこと

今年はソフトバンクがスポンサーになって、Youtubeで3日間の主なステージを生中継(後追い可、再放送あり)してくれた。

なかなか行けないって人がありがたがって観てるツイートをよく見かけたし、自分も金曜と日曜は大いに楽しんだ。

 

これまでフジロックにはいろんなスポンサーがついてきた。

その中にはBSやCSの放送局もあった。それらの企業は、有料チャンネルで後日フジロックの様子を放送することで、加入者を増やしたいという思惑があってスポンサーになった。しかも放送されるのは3日間の全ステージを数時間分にダイジェストしたもの。

 

それに比べて今回は、無料!生!ライブ全部!っていうんだからすごい。

ソフトバンクにとっては、フジロックそのものでお金を稼ごうとはしておらず、ブランディングが目的なのであろう。

ブランディング目的というのはつまり、在宅フジロッカーたちのソフトバンクへのイメージが良くなることを目指しているというわけ。

 

なので、このありがたい取り組みが来年もあるかどうかは、実際にアンケートなり調査を行って、企業イメージが良くなっているかどうかにかかっているはず。

巨額のコストをかけてでも無料配信する価値あるかどうか。

 

もしかしたらみなさんがそのアンケートの対象になるかもしれない。

もしそういう機会があったら全力で「イメージ爆上がりッス!!!孫さん最高!」と答えるように。よろしくたのみます。

 

あと、無料で配信されるんだったら、合計10万ぐらいかけて現地に行って雨に振られながら見るのがアホらしいわって考える人がどれぐらい出てくるか。

まあ多少はいるかもしれないが、自分に限っていうと、あーちくしょー!こんな感じなら多少無理してでも行けばよかった!と後悔めっちゃした。少なくとも4回、N.E.R.D、cero、アンダーソン・パーク、ダーティープロジェクターで思った。

無料配信があったことで、むしろ来年の行きたさが増した。

 

 

ということで

フジロックみんな行きましょう。

ロックが枯れたとしても、おもしろい音楽はまだまだどんどん出てくる。

日頃チェックしていなくても、フジロックが発掘してくれる。

今年のラインナップからそういうメッセージを受け取ったわ。

 

そして在宅でいいやって思った人へ。

現地は配信の100倍過酷やけど200倍楽しいです。

 

そして。

台風の暴風にやられながら25時までねばって観た民謡クルセイダーズは最高だった。

 

https://www.instagram.com/p/BlyRg47g3w2/

今日いろいろ見たけどダントツでよかったのが #民謡クルセイダーズ 。暴風雨のなか深夜までねばった甲斐あった。来年あたりヘブンに進出しそう。 #fujirock