森の掟

J-POPやメタルやフェスや音楽番組なんかの批評(という名の無益な墓掘り行為)

DA PUMP「U.S.A.」はこうしてつくられた(KPIとしての「ダサい」)

DA PUMPの新曲「U.S.A.」が話題ですね。

なんといってもサビが「カーモンベイビーアメリカ」の連呼、しかも音の乗せ方がカタカナ英語のそれで、ボキャブラリーも小学3年生レベル。

「ダサい」「ダサいけどクセになる」「ダサかっこいい」など、とりあえず「ダサい」ってことを共通認識とした上でその破壊力にみんなやられちゃってる様子。

 


DA PUMP / U.S.A.

 

「ダサい」は想定外か

じゃあその「ダサい」って反応は、本人たちの想定外だったのか。

リーダーISSAはこんなふうに語ってる。

これを録音するのか、今やらなくてもいいんじゃないか、と思いました。歌詞も、どうなんだろうと。ユーロビート自体はなじみのあるジャンルで抵抗はないんですけど、チームとして考えたときに、今これで大丈夫かと。

やっぱり「U.S.A.」は本人たちもダサいと思っており、わかった上でやっているらしいことがわかる。

 

そしてこのインタビューの別のところでは、「自分たちが予想していなかったところで反響が大きい」とも言っており、こんなにバズるとは思っていなかったらしいこともわかる。

 

つまり、自分たちでも「ダサい」と感じていたしそう言われるだろうことも想定していたけど、こんなに評判になるとは思っていなかったって感じか。

でもそれって、どういうことか。

DA PUMPとして数年ぶりのシングルに、メンバーが微妙だと感じるような曲をわざわざやるっていうのは。

 

渋るDA PUMPに、ダサいけど絶対にバズるから信じてやってみてくれって誰かが説得したんじゃないだろうか。

 

妄想のDA PUMP戦略会議

2018年初頭あたりに開かれたであろう、DA PUMPの戦略会議を妄想してみる。

2014年に久しぶりにm.c.A・Tの楽曲で新曲をリリースするもいまいち世間に浸透していない今のDA PUMPを売るにはどうすればいいか、っていうテーマだったと思う。

たとえばISSAが、昨今のR&Bのトレンドを踏まえた方向性を提案したり、avexのスタッフが若手とのコラボを模索したりしたかもしれない。

 

だけど、その会議にはメンバーやマネジメントなどの内輪の人間だけじゃなく、たぶんいい意味でこれまでのDA PUMPの活動にリスペクトのない外部の人間が絶対いたと思う。

その人間が、「あえてズバリいいますけど、今のDA PUMPがまっとうな音楽性の曲をリリースしたとして、話題になりますか?」とか言ったんじゃないだろうか。

 

「中途半端に上質な楽曲をリリースしたところでどうなります?DA PUMPってそういうグループでしたっけ?ISSAさん、音楽評論家どもに評価されることと、もう一度紅白に出ること、どちらがやりたいことですか?」

「そりゃ紅白だけど…」
「ですよね?じゃあ紅白出たいなら、自分の提案を信じてください。必ずバズらせてみせます」

「そんなに簡単にいくかねえ?」

「ネット発で紅白っていう道筋が自分には見えてます」とか。

 

ここでパワーポイント登場

ここまでで会議の場の空気を一旦支配しといて、満を持してパワポの資料をプロジェクターに投影。

 

f:id:guatarro:20180612125107p:plain

内部資料が流出したっていうつもりでご覧ください。

 

縦軸はスキルとフレッシュさ。横軸は親しみやすさと尊敬。

競合するであろう男性ダンス&ヴォーカルグループをプロットしていき、さてDA PUMPはどこを狙いますかっていう問いかけをしたと思う。

 

さすがにDA PUMPにはフレッシュさはもう望めないので、スキルフルにならざるを得ない。

あとは横軸でどこを狙うかで、DA PUMPのキャリアで普通に考えるとスキルフルで尊敬の対象っていうポジショニングになるんだけど、ただその場所にはEXILEや(グループじゃないけど)三浦大知っていう横綱がすでに鎮座している。

 

すでに立派なキャリアがあるアーティストとしては、スキルフルで尊敬の対象をエグザイル以上に極めたいとか思いがちだけど、そんなレッドオーシャンに飛び込むのは勝ち目ないですよって。それよりもスキルフルで親しみやすいところががら空きですよって。そう説得されたはず。

 

「スキルフルで親しみやすい」っていうポジションは実はネット的な文脈と相性が良くて、これからの時代オススメですと。ただ中途半端にやっても印象に残らないので、「ダサい」って言われるぐらいの強い印象を与えましょうと。

 

そう。この戦略に乗ったからには、とにかくやり切ることが必須。

だから音楽性でもっともダサいところとしてユーロビートを持ってきて、歌詞も小学生レベルの語彙であててきて。

あとは「◯◯ダンス」っていう素人でもギリギリまねできる要素を入れれば完璧。

その会議では「TTポーズ」とか「ランニングマン」とかが例として挙がっていたでしょう。

 

そこまで言われてISSAも腹をくくったんでしょうね。
わかった。どんな曲でも乗ってみせようと。

こうして「U.S.A.」が誕生したわけです。絶対そうです。

 

KPIとしての「ダサい」

こうして世に出たDA PUMPの新曲プロジェクト。

この取り組みが成功したかどうかは、最終的には「U.S.A.」の売上ってことになるんだろうけど、そのゴールに至るまでのプロセスをみるKPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)として、「ダサい」って言われた回数を計測していてもまったくおかしくない。

 

つまりきみたちが上から目線だかで「ダサい」とツイートするたびに、「U.S.A.」は成功に一歩近づき、ISSAは「あのときの判断は間違ってなかった」と自信を深める構造になっています。

こうしているうちにも、紅白で「U.S.A.」コールが起こる可能性が日に日に高まっているところ。

その前にFNS歌謡祭でスペシャルメドレーとして「ごきげんだぜっ!」からの「U.S.A.」でお茶の間をロックするであろうし、ダンスサークルが学祭でキレキレのいいねダンスを披露するであろう。

 

個人的には、こういうイチかバチかの勝負のタイミングで洋楽の日本語カバーが選ばれたことがうれしい。

世の中にまたひとつ、ものすごい破壊力をもった日本語カバー曲が生まれたわけで、そういう意味では西城秀樹「Y.M.C.A.」の系譜と考えてもいいと思う。