「柳生一族の陰謀」を観た

今日はなんとなく2時間ぐらい空いたので、Amazonビデオで「柳生一族の陰謀」という映画を観た。

1974年に大ヒットした大作時代劇で、監督は「仁義なき戦い」シリーズの深作欣二

おもしろいらしいという噂は耳に入っていたけど、今までなんとなく観る機会がなかった。

 

柳生一族の陰謀 [DVD]

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歴史好きの王道

日本で「歴史好き」を自認する人は多いけど、実はその8割ぐらいは戦国時代と幕末だけが好きな人って印象。自分ももちろん戦国と幕末から入ったクチだし、大河ドラマだって戦国と幕末のどっちかが圧倒的に多いじゃないですか。

あと残りの2割のほとんどは古代史好きでなぜか団塊世代に多い。

 

まあ戦国も幕末も古代も、いずれも要するに世の中が乱れていろんなことが起こった時代がやっぱりおもしろいよねってこと。

当事者として乱れた時代に生きるのは勘弁してほしいけど、後世から他人事として眺めるぶんには、乱れているほどいい。平和な時代には能力を発揮できてなかったような強烈なキャラクターがいっぱい出てきて、みんなそれぞれの立場で激しく生きてたし。

(ちょっと脱線するけど中国の歴史好きはやっぱり三国志が好きみたい。むかし同じ会社だった四川省出身の張さんは、退職のあいさつ代わりに、社員みんなを三国志の武将に例えてくれた。ハシノは蜀の参謀・法正なんだって)

 

なので、江戸時代が好きっていう人はアカデミズムの世界ならまだしも素人の歴史好きにはあまり見当たらない。浮世絵とか落語や歌舞伎といった庶民の芸能としての江戸が好きっていう人は多いけど、いわゆる歴史ってやつとは別ジャンルと思ってる。

大河ドラマでも、どっぷり江戸時代だけを描いた作品ってあったっけ?忠臣蔵ぐらい?

 

なので「柳生一族の陰謀」は、徳川三代将軍である家光の話ということで、「なんだ江戸時代かー遠山の金さんみたいなチャンバラのやつかー」ってな感じで敬遠してたところもある。

同じ千葉真一なら「戦国自衛隊」観るわーって。

 

虚構のさじ加減による適度な戦国っぽさ 

そんな印象があったので、あまり期待せずに「柳生一族の陰謀」を観始めたんだけど、結論から申し上げると、これがとてもおもしろかった。


柳生一族の陰謀(予告編) 

三代将軍家光の頃なので、どっぷり江戸時代といえばそうなんだけど、わりと史実を無視した設定がいろいろ入ってる。実在の人物にしても死んだ時期とか死因が史実と違ってたりして。

そのへんが、史実を崩さずその隙間でドラマをつくっていく大河ドラマとはまったく違うバランスになってるんだけど、多少のウソをまぜて戦国っぽいノリに寄せようとしてる感じがした。天下統一されたとはいえ、ちょっとしたきっかけでまた戦国になるよっていうヒリヒリした空気。

 

また、将軍家の内輪もめに乗じて公家が外様大名を利用して権力を奪い返し、天皇中心の国をつくろうと暗躍するという設定もあったりして、その設定のおかげで幕末っぽさまでかもしだされてる。

つまりみんな大好きな乱れた時代のやつとして観れる作品です。

 

それでいて、江戸時代のサムライものの良さもあるんだよな。

自分にとってサムライものの良さっていうと、サラリーマンものにも通じる、組織の論理に振り回される個人の悲哀。

そして刀は持ち歩いてるけど、滅多なことでは抜かないし抜けないっていう緊張感。戦国時代とかと違って、基本的に秩序が保たれた世界なんだけど、いざというときは抜くよっていう。抜いたからにはどちらか死ぬよっていう。

ここもう少しくわしく説明すると、戦国時代の人ってさ、基本的に血の気が多すぎる首刈り族だし正直いって感情移入はリアルにはできないわけ。だけど、江戸時代のサムライは基本的に秩序のなかで粛々と仕事をしてる人たちなので、はるかに感情移入できる。そんな、身近な存在なのに、何かのきっかけでいきなり首狩り族のノリが出ちゃうから、観ててショックが大きい。

織田信長が何千人殺す話よりも、ささいなことでブチ切れた殿様に手打ちにされる一人のサムライの話のほうが、断然「うわー」ってなる。

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イメージとしては平田弘史せんせいの劇画など

 

どんなお話かというと兄弟げんかです

柳生一族の陰謀」のストーリーをひとことで言うと、将軍家の兄弟げんか。

実際に三代将軍が家光に決まるまでにゴタゴタしたらしいんだけど、そこにあることないこと盛り込んでお話ができてる。

 

柳生一族っていうのは将軍家の剣術指南役の柳生宗矩とか柳生十兵衛とかのこと。

この一族が将軍家の兄弟げんかの背後で暗躍して、さらに京都の公家とか、まだまだ一発逆転を狙う浪人たちとかも絡んでくる。

 

当時すでに下火になっていた時代劇を復興させるために東映が威信をかけてつくったというだけあって、いろいろ豪華。

往年のチャンバラに加え、柳生十兵衛の役が千葉真一で、真田広之とか志穂美悦子もいるしで、アクション要素は強め。

キャストもよい。深作欣二監督だからか、松方弘樹とか金子信雄成田三樹夫といった仁義なき戦いシリーズの人とか、圧倒的に重みがある萬屋錦之介とか。

出番は少ないながらも、ちゃんと強烈な印象を残していく丹波哲郎原田芳雄。この二人ってそういうの多くないか。

 

特に、成田三樹夫演じる烏丸少将っていう公家のキャラがすごかった。

時代劇における公家ってふつうナヨナヨしててヘタレって相場が決まってるけど、烏丸少将はそこらの剣豪よりも強いっていうおもしろい設定。

検索したらやっぱみんな大好きなキャラみたいで、最近だとアニメ「ポプテピピック」 のたまたま見逃してた回に烏丸少将ネタが出てきてた。

togetter.com

 

多彩なキャラが入り乱れ、いろいろあって柳生一族の陰謀は成就するっていうストーリーなんだけど、最後の最後で虚実のバランスが大きく乱れるぶっ飛んだラストに。

たしかに柳生宗矩は主人公だけど徹底的に目的のためには手段を選ばないので、この人の望みどおりになったとしてもハッピーエンドとは言い難いよなっていうのはある。なのでああいうラストにすることで観てる人の気持を落ち着かせることにしたのかなと思った。

 

実際はどんな兄弟だったのか

三代将軍の座をめぐって争った徳川家光と徳川忠長。

映画では、父である先代の将軍秀忠は忠長を跡継ぎにと考えており家光は疎まれていたという設定だった。家老たちも忠長派が多く、また忠長自身にも人望があっていい人って感じのキャラ設定。家光を担ぐ柳生宗矩やその一派の陰謀に巻き込まれてしまう受け身の存在になっている。

 

これ実際はどうだったのか調べてみたところ、忠長って人にはかなり残虐で狂ったエピソードがあるみたい。

江戸城で狩りをして父秀忠を激怒させたり、家臣にイラついて手打ちにしたり、家康ゆかりの浅間神社で神聖な扱いだった猿を大量に狩ったり。いろいろ重なって最終的には領地を没収され、自害したという。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/18/Tokugawa_Tadanaga.jpg/200px-Tokugawa_Tadanaga.jpg

あれ、これだと「柳生一族の陰謀」でのキャラと全然違う。

映画と同じなのは、当初は父秀忠は見た目のいい忠長をかわいがって次期将軍にしたがっていたというところまで。

 

 

でも、忠長が暗愚だったという話って、あくまでそういうエピソードが残っているというだけ。本当はどっちかは確かめようがない。

むしろ、忠長に暗愚なイメージを植えつけるためにそんなエピソードをわざわざ残したって説もありえる。

 

自分が徳川幕府の人間だったら、父秀忠がかわいがった忠長ではなく家光が将軍になったとき、それをなんとかして正当化しようとするだろうなと。どうやって正当化するかというと、兄弟のうち弟忠長は明らかに将軍の器じゃなかったのでこれはもう兄家光しかないよなって空気をつくる。後世の人間に、忠長が暗愚だっていう印象をもってもらうためにいろいろ工作すると思う。

 

だって途中までは父が贔屓したくなるような優秀な子だったわけで、それがいきなり頭おかしい暗君になるだろうか。

やっぱり忠長にそういう印象をつけるような家光派による世論操作があって、そのせいで忠長の評判は300年後まで落ちたままなんじゃないだろうか。

そして将軍のまわりでそういう闇の仕事って、ちょうど剣術指南でありながら諸大名へも影響力をもっていたという柳生宗矩あたりに適任だったのかもしれない。

 

そうなるとこの印象操作こそがリアル「柳生一族の陰謀」で、その陰謀は大成功してるんじゃないだろうか。